第45話 外に出た者
外に出ると、
世界は急に広くなる。
そして同時に、
驚くほど冷たくなる。
---
ロイは、
港町を出て三日目で
それを実感した。
ギルドはない。
掲示板もない。
保証も、
仲介もない。
あるのは、
足と、目と、
自分の判断だけだ。
---
「……思ったより、
静かだな」
独り言が、
自然に口をつく。
誰も、
返さない。
---
最初の仕事は、
村の柵直しだった。
依頼主は、
農夫。
報酬は、
銀貨二枚。
安い。
---
「……本当に、
それだけでいいのか」
農夫が、
心配そうに聞く。
「十分だ」
ロイは、
即答した。
---
危険は、
ほぼない。
だが、
地味だ。
評価も、
名声も、
一切生まれない。
---
「……冒険者、
なんだよな?」
農夫が、
首をかしげる。
「元、だ」
ロイは、
そう答えた。
---
二日で、
仕事は終わった。
柵は、
しっかり立ち。
家畜は、
逃げない。
それだけだ。
---
「助かった」
農夫は、
銀貨を渡す。
「また、
頼んでいいか」
ロイは、
少し考え――
うなずいた。
---
その夜。
村外れの
空き小屋で、
ロイは火を焚いた。
---
「……生きてるな」
腹は、
満たされていない。
だが、
不思議と
息はしやすかった。
---
翌日。
別の農家から、
声がかかる。
「倉庫の見張りを
頼めないか」
「夜だけでいい」
「賊が出る」
ロイは、
条件を聞いた。
---
「人数は?」
「一人」
「武装は?」
「刃物程度」
「報酬は?」
「銀貨三枚」
割に合う。
---
「受ける」
それだけだった。
---
夜。
賊は来た。
一人。
動きは、
鈍い。
慣れていない。
---
「……引け」
ロイは、
低く言った。
「ここは
割に合わない」
賊は、
一瞬迷い――
逃げた。
---
戦闘は、
起きなかった。
誰も、
傷つかなかった。
---
翌朝。
「何も
なかったな」
農家が言う。
「はい」
「……それで?」
「それで、
終わりです」
農家は、
少し驚き――
笑った。
---
「助かった」
それだけ。
追加の礼も、
噂も、
なかった。
---
ロイは、
村を出る。
次の仕事は、
決めていない。
---
その背中を、
誰も追わない。
だが――
困ってもいない。
---
「……これで、
いい」
ロイは、
自分に言う。
---
一方。
遠く離れた丘で、
俺はその話を聞いた。
直接ではない。
旅商人の噂として。
---
「……地味ね」
ミレイアが言う。
「はい」
「でも」
「はい」
「壊れてない」
「はい」
それが、
全てだった。
---
視界の端に、
文字が浮かぶ。
《制度外活動:開始》
《成功定義:生存》
《評価:不要》
---
外に出た者は、
何も得ない。
名声も、
称賛も、
記録も。
だが――
失わない。
命を。
選択を。
呼吸を。
それは、
世界にとって
あまりにも
地味な成功だった。
だが、
壊れない成功は、
いつも
そんな形をしている。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




