第44話 選ばなかった選択
三日は、
思っていたより短かった。
決断に必要な時間としても、
迷いを引きずる時間としても。
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エナは、
ほとんど眠れなかった。
書類は、
何度も読み返した。
安全。
保証。
制限。
どれも、
彼女にとっては
現実的で、
優しい言葉だった。
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「……間違ってない」
そう、
何度も自分に言い聞かせる。
それでも、
胸の奥に
小さな引っかかりが
残る。
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一方。
ロイは、
荷をまとめていた。
量は少ない。
必要最低限。
それだけでいい。
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「……決めたんですね」
エナが、
静かに言う。
「はい」
ロイは、
即答した。
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「外に出る」
「ギルドの
保護を
捨てる」
「依頼も、
報酬も、
全部自分で探す」
エナは、
視線を落とす。
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「……怖くないですか」
「怖い」
「それでも?」
「それでもだ」
ロイは、
穏やかに言った。
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「檻は、
優しい」
「だが、
慣れる」
「慣れたら、
出る理由が
なくなる」
その言葉は、
責めるものではない。
ただの、
事実だった。
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「……私」
エナは、
しばらく黙り――
書類を見つめた。
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「私は、
残ります」
声は、
震えていなかった。
「ここに」
「檻付きの
自由に」
ロイは、
何も言わない。
止めない。
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「……それで」
エナが、
言葉を探す。
「あなたと、
一緒にいられなく
なりますね」
「はい」
短い返事。
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「でも」
ロイは、
続ける。
「それでいい」
「同じ道を
歩かなくても」
「選び続けているなら、
それは
降り続けている」
エナの目に、
涙が滲んだ。
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「……私、
逃げてますか」
「いいえ」
ロイは、
はっきり言う。
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「逃げるとは、
選ばないことだ」
「あなたは、
選んだ」
「それだけで、
十分だ」
エナは、
静かにうなずいた。
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翌朝。
ギルドの中庭で、
二人は向かい合う。
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「……行き先は?」
「決めていない」
「らしいですね」
エナは、
少し笑った。
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「生きてください」
ロイが言う。
「あなたも」
エナが答える。
それだけだった。
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一方。
少し離れた路地で、
俺とミレイアは
その別れを見ていた。
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「……綺麗な別れね」
ミレイアが言う。
「はい」
「でも、
痛い」
「はい」
俺は、
静かに続ける。
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「正しい選択は、
一つではありません」
「正しい別れも、
一つではありません」
ミレイアは、
深く息を吐いた。
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「……ロイは、
外へ」
「はい」
「エナは、
中へ」
「はい」
「世界は、
どっちを
正しいって
言うと思う?」
「安全な方です」
即答だった。
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「……でも」
「はい」
「正しいから
壊れないとは
限りません」
ミレイアは、
何も言わなかった。
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ロイは、
町を出た。
名も、
肩書も、
保証もない。
だが――
選択は、
まだ
自分のものだった。
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一方。
エナは、
書類に
署名した。
最低保証。
制限付きの依頼。
安全な場所。
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どちらも、
間違いではない。
だが――
二人は、
同じ場所には
立っていない。
それでも、
二人とも
評価から降りる
選択を
続けていた。
世界は、
その違いを
まだ
理解できていなかった。
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