第43話 檻付きの自由
制度は、
選択肢を奪うとき、
必ず「安全」という言葉を使う。
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「……正式に決まりました」
港町支部の支部長は、
疲れた声で言った。
「評価拒否者向け区分、
暫定運用開始です」
机の上に、
新しい書類が置かれる。
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《非評価区分登録書》
《昇格:なし》
《功績記録:なし》
《依頼範囲:限定》
《最低報酬:保証》
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「……守られてますね」
エナが、
小さく言った。
「守られている」
ロイは、
書類を見つめたまま
繰り返す。
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「危険な依頼は
回されない」
「報酬は
安定する」
「評価で
追い立てられない」
支部長は、
淡々と説明する。
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「これ以上、
不利にはならない」
「生きるには、
十分だ」
それは、
事実だった。
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「……拒否は?」
エナが聞く。
「可能だ」
支部長は、
正直に答える。
「だが、その場合」
言葉を選ぶ。
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「ギルドの
保護は外れる」
「仕事の斡旋も、
なくなる」
「完全に、
自己責任だ」
空気が、
重くなる。
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「……つまり」
エナが、
静かに言う。
「ここに
入れば生きやすい」
「外に出れば、
自由だけど危険」
支部長は、
うなずいた。
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「檻付きの自由だな」
ロイが、
ぽつりと言った。
「檻?」
「柵と言ってもいい」
ロイは、
紙を指で叩く。
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「出られないわけじゃない」
「だが、
出る理由を
削られる」
「それが、
檻だ」
支部長は、
反論しなかった。
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エナは、
書類を手に取る。
指先が、
少し震えている。
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「……私」
エナは、
声を落とす。
「正直、
怖いです」
「外に出るのも」
「ここに
入るのも」
ロイは、
何も言わない。
急がせない。
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「ここなら」
エナは、
続ける。
「誰かを
死なせる
可能性は低い」
「もう、
あんな思いは
したくない」
その言葉は、
とても重かった。
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「……それでいい」
ロイは、
静かに言った。
「それは、
正しい選択だ」
エナは、
驚いたように
顔を上げる。
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「止めないんですか」
「止めない」
「同じ道を
選ばなくていい」
ロイは、
はっきり言った。
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「降りるっていうのは、
同じ場所に
立つことじゃない」
「自分で
選び続けることだ」
エナの目に、
涙が滲む。
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一方。
少し離れた場所で、
俺とミレイアは
その様子を見ていた。
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「……安全ね」
ミレイアが言う。
「はい」
「優しい檻」
「はい」
俺は、
否定しない。
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「あなたなら?」
彼女が聞く。
「入る?」
「入りません」
「即答」
「外に
出たからです」
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「ロイは?」
「出ます」
「エナは?」
「迷います」
ミレイアは、
小さく息を吐いた。
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「……別れるのね」
「はい」
「でも、
どっちも
間違いじゃない」
「はい」
それが、
この物語の
一番大事な部分だった。
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支部長は、
二人を見て言った。
「……期限は三日だ」
「決めてくれ」
ロイは、
うなずいた。
エナは、
書類を胸に抱いた。
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檻付きの自由。
それは、
世界が用意できる
最大限の譲歩だった。
だが――
自由を
選び続ける者にとって、
それは
終着点ではない。
選択は、
まだ
終わっていなかった。
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