第40話 正しさを強制する手
制度は、
正面から殴りかかってこない。
壊れないものに対して、
正面衝突は効かないと
知っているからだ。
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冒険者ギルド本部。
新しい通達が、
静かに配布された。
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《業務効率向上のための
内部規定改定について》
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書き出しは、
柔らかい。
誰も反対しにくい
言葉が並んでいる。
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「……これ」
港町支部の支部長が、
紙を読みながら呟いた。
「評価拒否を
禁止してるわけじゃない」
「だが」
続きを読む。
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《一定期間内に
評価面談を受けない場合、
依頼選択権を制限する》
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「……来たな」
支部長は、
小さく息を吐いた。
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それは、
排除ではない。
罰則でもない。
だが――
**自由を削る**。
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「評価を
受けないのは自由」
「だが、
その自由には
不便が伴う」
制度側の
完璧な論理だった。
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一方。
ロイの班にも、
その通達は届いた。
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「……選択権、
制限?」
エナが、
眉をひそめる。
「事実上、
危険依頼を
回される可能性が
上がるな」
ロイは、
紙を畳んだ。
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「どうします?」
エナが聞く。
「受ける」
「え?」
「制限を」
ロイは、
淡々と言った。
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「評価は?」
「受けない」
「でも、
依頼が――」
「なら、
断る」
ロイは、
視線を上げる。
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「制限は、
強制じゃない」
「選択肢が
減るだけだ」
「選択肢が
減っても、
選ばない自由は残る」
エナは、
少し黙る。
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「……苦しく
なりますよ」
「はい」
「それでも?」
「それでもだ」
即答だった。
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数日後。
制限は、
現実のものになった。
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「この依頼、
割り当てだ」
受付が、
気まずそうに言う。
「危険度は?」
「中〜高」
「報酬は?」
「低い」
ロイは、
紙を受け取り、
その場で返した。
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「断る」
「理由は?」
「割に合わない」
受付は、
何も言えなかった。
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周囲の冒険者が、
小声で囁く。
「……あいつら、
本当に断るぞ」
「評価拒否って、
こういうことか」
恐怖と、
軽蔑が混じる。
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「……ねえ」
エナが、
小さく言う。
「私、
間違ってますか」
「いいえ」
ロイは、
即答する。
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「正しさは、
強制された瞬間に
歪む」
「それを
受け入れないのは、
間違いじゃない」
エナは、
深く息を吐いた。
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一方。
俺とミレイアは、
港町を離れていた。
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「締め付け、
始まったわね」
「はい」
「あなたなら、
どうする?」
「何もしません」
「……本当に?」
「制度が
自分で
試される段階です」
ミレイアは、
複雑な顔をする。
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「誰か、
潰れない?」
「潰れます」
「……」
「それでも、
残る者は残ります」
冷たい予測。
だが、
現実的だった。
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視界の端に、
文字が浮かぶ。
《制度介入:開始》
《圧力形式:間接》
《同調耐性:選別中》
(……分岐点だ)
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正しさを
強制する手は、
必ず
反発を生む。
だが、
従う者と
折れる者と
残る者が分かれる。
評価から降りるとは、
**不便を引き受けること**だ。
それを
引き受けられる者だけが、
本当に
降り続けられる。
世界は、
今度こそ
本気で
選別を始めた。
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