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無能扱いで追放された俺、実はパーティが崩壊しないよう全部やってただけでした 〜戻ってこいと言われても、もう遅い〜  作者: 芋平


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第4話 いつも通りの朝、いつも通りじゃない結末

 朝は静かだった。


 宿の二階、狭い部屋の小さな窓から差し込む光で目が覚める。

 特別な夢を見た覚えはない。悪夢でもない。

 ただ、いつもより少し早く目が覚めただけだ。


(……今日は装備の受け取りと、補給の確認)


 身体を起こし、指を動かして感覚を確かめる。

 問題なし。昨日の疲労も抜けている。


 洗面台で顔を洗い、簡単に身支度を整える。

 鏡に映る自分は、相変わらず地味だ。

 目立つ傷も、誇れる装飾もない。


(まあ、冒険者向きではない顔だな)


 自分で思って、小さく息を吐いた。


 朝食は硬いパンと薄いスープ。

 味はしないが、腹は満たせる。


 食べ終わる頃、頭の中で今日の段取りをもう一度なぞる。


修理屋で装備回収


ギルドで次の依頼候補を確認


補給品の価格交渉


セシリアの魔力回復具合を確認


(……いつも通りだ)


 いつも通り。

 それが、少しだけ引っかかった。


 昨日のギルドでの会話。

 ガルドの視線。

 アルディオの言葉。


(考えすぎか)


 考えすぎだ。

 そう結論づけて、部屋を出た。


 修理屋は朝から忙しそうだった。


「おう、レオン。来たか」


 親方が声をかけてくる。


「例の剣と盾、もう直ってるぞ。

 今回は助かった。部品の選定が完璧だった」


「それはよかったです」


「勇者様の装備だろ?

 やっぱ違うな。扱いが」


 ……勇者様の装備。

 まあ、間違ってはいない。


「料金、いつも通りでいいか?」


「はい」


 金を支払い、装備を受け取る。

 いつも通りのやり取り。

 ここには、何の違和感もない。


 ギルドへ向かう途中、アルディオたちの姿が見えた。


「おーい、レオン!」


 ガルドが手を振る。


「ちょうどよかった。

 あとで少し時間あるか?」


「はい。何かありました?」


「いや、まあ……話がある」


 その言い方で、だいたい察しはついた。


「分かりました。

 ギルドの個室ですか?」


「……ああ」


 一瞬、間があった。

 それだけで十分だ。


 ギルドの個室は、無駄に静かだった。


 四人が先に座っている。

 俺が最後に入る形。


「座ってくれ」


 アルディオが言う。


 その声は、妙に落ち着いていた。

 決意を固めた人間の声だ。


 俺は言われた通り、椅子に腰掛ける。


(さて)


 心の中で、小さく区切りをつける。


「レオン」


 アルディオが口を開いた。


「昨日の話、覚えてるな?」


「はい」


「俺たちで、ちゃんと話し合った」


 セシリアは視線を伏せ、

 リリアは腕を組み、

 ガルドは少し居心地悪そうに椅子を鳴らす。


「結論から言う」


 アルディオは、はっきり言った。


「お前には、パーティを抜けてもらう」


 ――やはり、か。


 予想していた。

 だから、驚きはなかった。


「理由は?」


 俺は、淡々と聞いた。


「役割が曖昧だ」


 アルディオは続ける。


「成果が見えない。

 今後、より高難度の依頼を受けるなら、

 役割が明確なメンバーだけで進みたい」


「……」


「悪く思うな。

 合理的な判断だ」


 合理的。

 便利な言葉だ。


「私たち、成長してますし……」


 セシリアが、小さな声で付け足す。


「正直、最近はレオンがいなくても、

 戦闘は回ってるわ」


 リリアも、はっきり言った。


「向上心が感じられない、というのもあります」


 ガルドは、最後にこう言った。


「嫌いじゃねぇんだ。

 でもよ、冒険者は結果だろ?」


 全員の言葉が、きれいにつながった。


 ――論理としては、破綻していない。

 ただ、前提がすべて間違っている。


 俺は、少し考えてから答えた。


「……分かりました」


 一瞬、全員が拍子抜けした顔をする。


「いいのか?」


 アルディオが聞く。


「反論は?」


「ありません」


 本当は、できる。

 説明もできる。

 実績も挙げられる。


 でも――


「どうせ、もう決めているでしょう」


 その一言で、空気が固まった。


 アルディオは、視線を逸らした。


「……そうだ」


「なら、これ以上話すことはありません」


 俺は立ち上がる。


「装備と身分証は置いていってくれ」


 ギルド職員が、事務的に言う。


 身分証を外し、机に置く。

 金属音が、やけに大きく響いた。


「それと、これ」


 アルディオが、俺の腰のポーチを指す。


「それ、パーティ共有の道具だろ?」


「……はい」


 煙玉、予備の回復薬、簡易工具。

 全部、俺が管理していたものだ。


 机に置く。

 一つずつ。


「あ、それは――」


 セシリアが何か言いかけて、やめた。


 言葉は、最後まで出てこなかった。


 手続きは、驚くほど早く終わった。


「以上だ」


 アルディオが言う。


「今まで……ありがとう」


 その言葉だけが、妙に浮いていた。


「いえ」


 俺は、軽く頭を下げる。


「こちらこそ」


 それだけ言って、部屋を出た。


 ギルドの外は、相変わらず賑やかだった。


 勇者を称える声。

 新しい依頼の掲示。

 平和な日常。


 ――俺だけが、そこから切り離された。


(……静かだな)


 耳鳴りがするほど、静かだった。


 所持金を確認する。

 今日の修理代と宿代で、ほぼ残っていない。


(宿、出ないとな)


 そう思った瞬間、

 胸の奥で、何かが「外れた」感覚がした。


 焦りでも、怒りでもない。

 ただ、ひどく冷たい感覚。


 視界の端で、

 ギルドの掲示板が、微かに歪んだ。


(……?)


 一瞬だけ、文字の配置がずれたように見えた。

 次の瞬間には、元に戻っている。


 気のせいだ。

 疲れているだけだ。


 そう思って、歩き出す。


 ――この時、

 俺はまだ知らなかった。


 すべてを失った人間にだけ見えるものが、

 すぐそこまで来ていることを。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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