第39話 評価しない組織は、扱いにくい
問題は、
いつも静かに始まる。
特に、
数字にできない問題ほど
音を立てない。
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冒険者ギルド本部。
港町支部からの報告が、
机に積まれていた。
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《昇格辞退者:増加傾向》
《評価拒否による
指標未確定案件あり》
《事故率:減少》
《苦情:増加》
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「……減っているのに、
増えている?」
本部官が、
眉をひそめる。
「事故は減っている」
「だが、
不満が増えている」
それは、
制度にとって
最悪の組み合わせだった。
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「原因は?」
「評価拒否者です」
「例の連中か」
言葉には、
わずかな苛立ちが滲む。
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「彼らは」
若い官僚が説明する。
「危険依頼を避け、
撤退判断も早い」
「結果として、
死亡率は下がっています」
「だが――」
言葉が止まる。
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「功績が、
計上できません」
沈黙。
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「……つまり」
上官が言う。
「“誰が頑張ったか”が
分からない」
「はい」
「評価も、
昇進も、
再配置もできない」
それは、
管理の根幹だった。
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「排除すべきでは?」
別の官僚が言う。
「規則違反ではないが、
前例になりすぎる」
「前例は、
規則を壊す」
慎重な声が、
同意する。
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「だが」
別の者が反論する。
「彼らを切れば、
事故が増える」
「現場が壊れる」
会議は、
堂々巡りになる。
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一方。
港町の支部では、
別の問題が起きていた。
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「この依頼、
誰が受ける?」
掲示板の前で、
冒険者たちが立ち止まる。
危険度:中。
報酬:低。
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「……ロイの班は?」
誰かが言う。
「断るだろ」
「じゃあ、
誰が?」
沈黙。
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以前なら、
“誰か”が
無理をしていた。
今は、
誰も動かない。
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「……評価拒否の
連中のせいだ」
誰かが吐き捨てる。
「違う」
別の声が返す。
「前から、
割に合わなかった」
責任の押し付け合いが、
始まる。
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ロイの班は、
いつも通りだった。
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「次は、
護衛だな」
「安全そうですね」
エナが言う。
「念のため、
逃げ道も確認する」
「はい」
彼らは、
静かに準備をする。
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「……文句、
増えたな」
エナが、
ぽつりと言う。
「はい」
「怖くないですか」
「怖い」
即答だった。
「だが」
ロイは、
歩みを止めない。
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「評価に
戻る方が、
もっと怖い」
エナは、
それ以上
聞かなかった。
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一方。
俺とミレイアは、
町を離れようとしていた。
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「……この町、
大変そうね」
「はい」
「あなたが
原因だって
言われない?」
「言われません」
「どうして?」
「誰も、
俺の名前を
知らないからです」
ミレイアは、
少し笑った。
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視界の端に、
文字が浮かぶ。
《非評価集団:定着》
《制度適応:遅延》
《排除リスク:中》
(……次の段階だ)
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評価しない組織は、
扱いにくい。
だが――
**壊れにくい**。
制度は、
壊れないものを
最も嫌う。
なぜなら、
修正できないからだ。
世界は、
次に
どんな手を打つのか。
その選択が、
また
試されようとしていた。
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