第37話 嫌われる自由
孤立は、
突然やってくるものではない。
少しずつ、
静かに、
逃げ場を塞いでくる。
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ロイの班に、
声をかける者は減っていた。
「……次の仕事、
どうする?」
仲間の一人が、
遠慮がちに聞く。
「前と同じだ」
ロイは、
短く答える。
「安全で、
報酬が見合うもの」
仲間は、
少し黙った。
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「……なあ」
「俺たち、
嫌われてるよな」
「はい」
即答だった。
「それで、
いいのか?」
ロイは、
少しだけ考えた。
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「嫌われるのと、
死ぬのとなら」
「嫌われる方が、
まだ選べる」
仲間は、
苦笑した。
「重いな」
「現実です」
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一方。
酒場では、
ロイの名前が
悪い意味で
使われ始めていた。
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「またロイか」
「都合が悪くなると
逃げるやつ」
「責任を
放棄した臆病者」
言葉は、
評価よりも
鋭い。
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「……おかしいわよね」
ミレイアが、
低い声で言う。
「“逃げる”って言葉、
簡単に使う」
「はい」
「逃げないで死ぬ方が
美談になる世界」
俺は、
何も言わなかった。
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数日後。
ロイの班に、
奇妙な依頼が来た。
正式なギルド依頼ではない。
匿名。
内容は簡単。
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《倉庫の夜警》
《危険度:不明》
《報酬:低》
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「……罠ね」
仲間が言う。
「はい」
ロイは、
紙を折った。
「断る」
「でも、
これ断ったら――」
「知っている」
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翌日。
噂が、
一段と悪質になる。
「選り好みしすぎ」
「仕事を
舐めている」
「評価拒否って、
要するに
責任逃れだろ」
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「……限界かもな」
仲間の一人が言った。
「俺は、
戻ろうと思う」
ロイは、
引き止めなかった。
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「分かった」
「……いいのか?」
「選択は、
個人のものだ」
仲間は、
目を伏せた。
「悪かったな」
「いいえ」
ロイは、
静かに言う。
「生きてください」
仲間は、
それ以上
何も言えなかった。
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班は、
二人になった。
それでも、
ロイは
依頼を選び続けた。
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その夜。
倉庫街で、
小さな火事が起きた。
原因不明。
誰も、
ロイを呼ばなかった。
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「……来なかったな」
ロイは、
瓦礫を見ながら言う。
「はい」
隣の仲間が答える。
「それでいい」
ロイは、
はっきり言った。
「呼ばれていたら、
行っていた」
「でも、
呼ばれなかった」
「それは、
俺の責任じゃない」
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一方。
俺は、
港町を離れる準備をしていた。
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「……見届けなくて
いいの?」
ミレイアが聞く。
「彼は、
もう一人で
立っています」
「厳しいわね」
「信頼しています」
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その時。
酒場の扉が開く。
若い女冒険者が、
ロイの前に立った。
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「……あなたが、
ロイ?」
「そうだが」
「評価、
要らないって人?」
「はい」
女は、
少し息を整え――
言った。
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「私も、
降りたい」
ロイの目が、
初めて揺れた。
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嫌われる自由。
それは、
孤独を選ぶ自由ではない。
**同じ選択をした者だけが、
静かに集まってくる自由**だ。
世界は、
それを
まだ
名前で呼べていなかった。
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