第36話 責任を拒否するという責任
変化は、
必ず摩擦を生む。
それが小さなものであっても、
例外はない。
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「……聞いたか?」
港町の酒場で、
冒険者が囁く。
「ロイの班、
また指名依頼を断ったらしい」
「安全な仕事だろ?」
「でも、
評価が付かない」
グラスの音が、
不満を含んで鳴った。
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「ふざけてる」
別の冒険者が言う。
「危ない仕事は避けて、
楽な仕事だけやって、
同じ報酬だ」
「それ、
ズルじゃないか?」
誰かが、
うなずく。
不満は、
評価から降りた者ではなく、
**残った者**から生まれる。
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ギルド支部。
支部長の机に、
苦情が積まれていた。
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《評価拒否者による
不公平感について》
《危険依頼の
偏り発生》
《責任意識の欠如》
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「……来たな」
支部長は、
低く呟く。
予想通りだった。
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ロイは、
呼び出された。
「文句が出ている」
支部長は、
率直に言う。
「分かってる」
「なら、
どうする」
ロイは、
少し考えた。
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「危険依頼は、
受けない」
「それは、
前からだ」
「だが」
ロイは、
はっきり言った。
「受けるべきだ、
とも思ってない」
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「……責任感が
足りない」
支部長が言う。
「街を守るのは
冒険者の役目だ」
「違う」
ロイは、
即答した。
「街を守るのは、
街の仕事だ」
空気が、
一瞬凍る。
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「冒険者は」
ロイは、
続ける。
「仕事を選び、
契約に応じ、
成果を渡す」
「それ以上は、
背負わない」
支部長は、
黙り込む。
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「……なら」
支部長は言う。
「お前は、
何に責任を持つ」
ロイは、
少しだけ
視線を落とした。
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「自分の選択だ」
静かな声。
「受けないと
決めたこと」
「逃げたと
言われても」
「卑怯だと
言われても」
彼は、
顔を上げる。
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「それでも、
俺は死なない選択をする」
「それが、
俺の責任だ」
支部長は、
長く息を吐いた。
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一方。
俺は、
港町の外れで
その話を聞いていた。
直接ではない。
噂として。
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「……誤解されてるわね」
ミレイアが言う。
「はい」
「ロイ、
ズルしてるって」
「典型的です」
評価から降りた者は、
必ず
“楽をしている”
と言われる。
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「助けに行く?」
彼女が聞く。
「行きません」
「冷たい」
「彼の選択です」
俺は、
静かに言った。
「彼が
引き受けるべきなのは、
他人の理解ではありません」
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その夜。
ロイの班は、
また依頼を断った。
危険度が、
見合わない。
報酬が、
安すぎる。
それだけの理由だ。
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翌日。
事故が起きた。
危険依頼を受けた、
別の班が
大怪我を負った。
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「……ロイの班が
受けていれば」
誰かが言う。
誰かが、
同意する。
ロイは、
何も言わなかった。
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「なぜ、
助けなかった」
問いかけが、
突き刺さる。
ロイは、
静かに答えた。
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「俺は、
自分の責任を
果たした」
「受けないと
決めた」
「それ以上は、
俺の責任じゃない」
冷たい言葉に聞こえる。
だが――
論理は一切、
崩れていない。
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ミレイアが、
俺を見る。
「……どう思う?」
「正しいです」
「それでも、
きついわね」
「はい」
評価から降りるというのは、
**嫌われる覚悟を
引き受けること**だ。
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視界の端に、
文字が浮かぶ。
《同調拡大》
《反発発生:想定内》
《継続可否:観測中》
(……越えられるか)
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ロイは、
英雄にならない。
理解者も、
まだ少ない。
それでも。
責任を拒否するという責任を、
彼は引き受けている。
それができる者だけが、
本当に
評価から降りられる。
世界は、
それを
まだ知らなかった。
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