第32話 同じ選択をした人
それは、
俺が知らない場所で起きた。
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南方の港町。
交易で栄え、
同時に揉め事も多い場所だ。
冒険者ギルドの支部は、
常に騒がしかった。
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「……また、
昇格審査が止まってる」
受付の男が、
うんざりした声で言う。
「理由は?」
「上が詰まってる」
「評価基準が
変わるらしい」
いつもの話だ。
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「もう、
疲れたよ」
そう言ったのは、
一人の中年冒険者だった。
実力はある。
だが、
目立たない。
評価表では、
いつも“中”。
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「評価が変わると、
全部やり直しだ」
「俺は、
仕事がしたいだけなのに」
彼は、
ふっと笑う。
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「……なあ」
仲間に言う。
「ランク、
気にするの
やめないか」
「は?」
「依頼を
選ばず、
危ないのは断る」
「点数も、
名声も、
どうでもいい」
場が、
静まった。
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「それ、
ギルドに
嫌われるぞ」
「知ってる」
「干されるかも」
「構わない」
即答だった。
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数週間後。
その男の周囲だけ、
妙に安定した。
無理をしない。
過剰に背負わない。
失敗を隠さない。
結果――
事故が減る。
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「……おかしくない?」
受付が、
首をかしげる。
「彼の班、
成功率が
異様に高い」
「ランクは?」
「低いまま」
それが、
不思議だった。
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別の場所。
小さな農村。
代表を置かない試みが、
ひっそり始まっていた。
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「決めるのは、
集まった人で」
「責任は、
分ける」
「無理な年は、
無理だと言う」
それだけだ。
奇跡も、
教えも、
英雄もいない。
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それでも、
壊れなかった。
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一方。
俺は、
街道を歩いていた。
知らない土地。
知らない人。
だが――
風向きが、
少し変わっている。
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「……ねえ」
ミレイアが言う。
「最近、
変な話
聞かない?」
「はい」
「ランクを
気にしない冒険者とか」
「代表を
決めない村とか」
彼女は、
眉をひそめる。
「偶然?」
俺は、
首を振った。
「共鳴です」
「……何それ」
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「誰かが
教えたわけではない」
「真似した
わけでもない」
「ただ、
同じ結論に
辿り着いただけです」
ミレイアは、
しばらく黙る。
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「……怖くない?」
「はい」
「世界が、
変わり始めてる」
「いいえ」
俺は、
はっきり言った。
「変わっていません」
「もともと、
選択肢は
ありました」
「見えて
いなかっただけです」
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視界の端に、
新しい表示が浮かぶ。
《観測》
《同調行動:複数確認》
《起点:不明》
(……俺じゃない)
それが、
一番大事だった。
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「ねえ、レオン」
ミレイアが言う。
「これ、
あんたの
責任になる?」
「なりません」
「どうして
言い切れるの」
「誰にも、
指示していないからです」
「……逃げ切る気?」
「生き切る気です」
彼女は、
小さく笑った。
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同じ選択をした人が、
どこかにいる。
名前も、
顔も、
知らない。
だが――
その選択は、
確かに
世界に増えている。
評価から降りる。
それは、
静かで、
誰にも称えられず、
それでも
壊れない生き方だった。
俺は、
それを
見届ける立場で
歩き続ける。
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