第30話 捕まえられない理由
追跡が終わったことを、
俺たちは
誰からも告げられなかった。
だが――
分かった。
空気が、
元に戻っていたからだ。
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「……終わったわね」
ミレイアが、
朝の街道を歩きながら言う。
「はい」
「追われてる感じ、
もうしない」
「理由が、
なくなりましたから」
彼女は、
小さく鼻を鳴らした。
「理由ねえ……」
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一方。
王都の外れにある、
臨時の報告室。
追跡部隊の報告が、
簡潔にまとめられていた。
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《対象:レオン・グレイ》
《武装:軽微》
《協力者:確認されず》
《敵対行動:なし》
《異常行動:なし》
《脅威評価:判断不能》
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「……判断不能、だと?」
報告書を読んだ男が、
苛立ちを隠さず言った。
王国側実務責任者。
この一連の件を
“まとめる役”を
押し付けられた人物だ。
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「捕まえられなかったのか」
「いえ」
部隊長は、
首を振る。
「捕まえませんでした」
「……違いは?」
「捕まえる理由が、
見つかりませんでした」
沈黙。
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「危険だと
言っていたのは、
お前たちだろう」
「はい」
「なら、
証明しろ」
部隊長は、
淡々と答える。
「危険であることを
示す行動は、
一切ありませんでした」
「……」
「逃走も、
破壊も、
扇動もありません」
「ただ――」
一拍置く。
「どこにも、
属していなかった」
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男は、
書類を机に叩きつけた。
「属していないから
危険だと言ったはずだ!」
「それは、
評価です」
部隊長は、
感情を交えない。
「事実ではありません」
その一言で、
空気が決まった。
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「……分かった」
男は、
ゆっくり息を吐く。
「この件は、
私の判断ミスということにする」
部隊長が、
わずかに目を細める。
「よろしいのですか」
「他に、
誰が責任を
取れる」
それが、
答えだった。
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数日後。
王国の内部文書に、
一行が追記される。
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《辺境事案に関する判断は、
過剰反応であった可能性あり》
《実務責任者:
再配置を検討》
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再配置。
聞こえはいい。
だが――
実質は、左遷だ。
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「……切られたわね」
ミレイアが、
噂話を聞いて言う。
「はい」
「最後まで、
顔も出てない人が」
「世界は、
そうやって
整理されます」
誰かが判断し、
失敗すれば、
誰かが切られる。
それが、
“理解できないもの”を
処理する方法だ。
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「で?」
彼女が聞く。
「これで、
完全に終わり?」
「いいえ」
「え?」
「追えないと
分かっただけです」
「……十分じゃない?」
「世界は、
“諦める”まで
時間がかかります」
彼女は、
苦笑した。
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視界の端に、
淡い文字が浮かぶ。
《追跡:終了》
《評価:棚上げ》
《関心:低下》
(……理想的だ)
敵認定されず、
味方にもされない。
ただ、
分類不能として
放置される。
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夜。
焚き火の前で、
ミレイアが言う。
「ねえ、レオン」
「はい」
「結局、
誰がざまぁだったの?」
俺は、
少し考えた。
「世界です」
「……それ、
一番分かりにくいわ」
「ですが」
俺は、
静かに続ける。
「一番、
確実です」
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捕まえられない理由。
それは、
強いからでも、
賢いからでもない。
捕まえる意味が、
どこにも存在しなかった。
ただそれだけだ。
そして世界は、
その“意味のなさ”を
誰か一人に押し付けて、
話を終わらせた。
今日も、
どこかで
同じことが起きている。
名前も残らず、
英雄にもならず。
だが――
壊れない選択だけが、
静かに残った。
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