第27話 真似した者から壊れる
それは、宗教勢力が去ってから
ほどなくして起きた。
噂は、
必ず「成功例」を欲しがる。
そして次に来るのは――
真似したがる者だ。
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「失礼する」
村に現れたのは、
王国の者でも、商会でも、教団でもなかった。
異国風の外套。
護衛は最小限。
だが、態度は堂々としている。
「我が名は、
グラント=セルディオ」
「東方連邦、
第七辺境領の代理官だ」
他国。
それだけで、
空気が一段変わった。
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「用件は?」
村長が問う。
「視察だ」
代理官は、
迷いなく言った。
「この村の
“安定モデル”を
我が領に導入したい」
来ると思っていた言葉だった。
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「条件は?」
村長は、
冷静だった。
「簡単だ」
代理官は、
指を一本立てる。
「この村と
同じ規則を
そのまま採用する」
ミレイアが、
思わず言った。
「……それだけ?」
「それだけだ」
自信満々の顔。
「成功例は、
真似れば再現できる」
俺は、
小さく息を吐いた。
(……一番、
危ないやつだ)
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「一つ、
聞いていいですか」
俺は、
静かに口を開いた。
「どうぞ」
「あなたの領では、
誰が最終判断を
下しますか」
「当然、
領主だ」
即答だった。
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「では」
俺は、
続ける。
「問題が起きた場合、
誰が責任を取りますか」
「領主だ」
「判断を誤った場合は?」
「……補佐官が」
一瞬の間。
それで、
十分だった。
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「この村では」
俺は、
村人たちを見る。
「誰も、
最終責任者ではありません」
「判断は、
分散しています」
「だから、
壊れにくい」
代理官は、
鼻で笑った。
「理想論だ」
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「人は」
彼は、
はっきり言った。
「誰かが
責任を負わねば
動かない」
「貴様の村は、
たまたま
うまくいっているだけだ」
ミレイアが、
低く呟く。
「……聞き捨てならないわね」
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「視察は、
これで十分だ」
代理官は、
踵を返す。
「モデルは
持ち帰らせてもらう」
許可を求めなかった。
それも、
典型的だった。
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数日後。
東方連邦・第七辺境領。
“壊れない村”を真似た
新制度が導入された。
・会議体
・複数判断
・事前準備
形だけは、
完璧だった。
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だが――
一週間で、破綻した。
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「誰が決めるんだ!」
「責任はどこだ!」
「領主の許可が必要だ!」
判断が、
止まる。
分散しているようで、
最後は一箇所に詰まる。
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獣害が出た。
誰も、
即断できなかった。
被害が拡大する。
「なぜ、
あの村は
平気なんだ!」
代理官が、
怒鳴る。
答えは、
簡単だった。
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真似したのは、
形だけだった。
覚悟も、
関係性も、
日常の積み重ねも。
何一つ、
持ち帰っていない。
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結果。
代理官は、
失策の責任を
負わされた。
辺境領では、
制度そのものが
危険視される。
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そして、
噂が流れる。
「“壊れない村”は、
真似すると壊れる」
皮肉な結論だった。
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夜。
焚き火の前で、
ミレイアが言う。
「……あっちは、
何も教えなかったのに
勝手に壊れたわね」
「はい」
「ざまぁ?」
「自業自得です」
即答。
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視界の端に、
文字が浮かぶ。
《模倣試行:失敗》
《外部理解:停滞》
《辺境安定度:維持》
(……これでいい)
壊れない仕組みは、
説明できない。
説明できないものは、
真似できない。
だから――
真似した者から、
先に壊れる。
それが、
この世界の
正直な答えだった。
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