第25話 奇跡の代償
《光導教団》の巡察使たちは、
村に留まった。
祈りを捧げ、
村を歩き、
人々に話を聞く。
だが――
何かを助けるためではない。
証明するためだった。
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「祝福は、
確かにここにあります」
集会所で、
巡察使はそう言った。
「ですが、
形が足りない」
その言葉に、
空気がわずかに張りつめる。
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「形、とは?」
村長が尋ねる。
「信仰です」
穏やかな口調。
「祈りの場。
儀式。
そして――」
一拍置く。
「祝福を示す、
分かりやすい“奇跡”」
誰かが、
息を呑んだ。
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「……奇跡?」
ミレイアが、
嫌な予感を隠さずに言う。
「はい」
巡察使は、
うなずく。
「この村が
本当に選ばれているなら、
神は応えるはずです」
それは、
試験だった。
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その日の午後。
村に、
いくつかの“提案”が出された。
・三日間の共同断食
・夜通しの祈祷
・病人を集めた祝福儀式
「……冗談じゃない」
年配の女性が、
はっきり言った。
「うちは畑仕事がある」
「断食なんて、
体を壊すだけだ」
だが――
別の声も上がる。
「でも……」
「もし、
本当に守られるなら……」
希望が、
不安を侵食する。
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視界の端が、
ゆっくり歪む。
《警告》
《分断発生:兆候》
《原因:選民思想》
(……来た)
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「レオン」
ミレイアが、
小声で言う。
「このままだと、
割れるわ」
「はい」
「止めないの?」
「止めません」
即答だった。
「……冷たいわね」
「いいえ」
俺は、
はっきり言った。
「ここで止めると、
“奇跡を止めた人間”に
なります」
彼女は、
言葉を失う。
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夜。
巡察使の一人、
若い助祭が
村人に囁いて回る。
「不安ですか?」
「大丈夫です」
「信じれば、
救われます」
言葉は、
やさしい。
だが――
責任は、
一切引き受けない。
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「……ねえ」
若い父親が、
俺に言った。
「もし、
やってみて
何も起きなかったら……」
「その時は」
俺は、
静かに答える。
「何も起きなかった、
それだけです」
父親は、
困ったように笑った。
「……それじゃ、
怖いんだ」
その言葉が、
全てだった。
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翌日。
教団は、
儀式の準備を始めた。
村の中央。
普段は集会に使う広場。
そこに、
簡素な祭壇が置かれる。
「奇跡を、
お見せします」
巡察使は、
自信満々だった。
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儀式の前夜。
村は、
二つに割れていた。
・信じる者
・距離を置く者
どちらも、
悪くない。
ただ――
“選ばれるかもしれない”
という言葉が、
人を分けただけだ。
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ミレイアが、
焚き火のそばで言う。
「ねえ、レオン」
「はい」
「もし、
何か起きたら?」
「起きません」
即答。
「どうして?」
「奇跡は、
必要な場所でしか
起きないからです」
「ここは?」
「必要ありません」
彼女は、
ゆっくり息を吐いた。
「……明日、
地獄ね」
「ええ」
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そして翌朝。
村人たちが、
広場に集まる。
祈りの声。
期待の視線。
巡察使は、
祭壇の前に立つ。
「光よ――」
祈りが、
響く。
だが――
何も起きなかった。
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風が吹き、
雲が流れ、
鳥が鳴く。
それだけだ。
誰かが、
息を呑む。
誰かが、
視線を逸らす。
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「……もう一度」
巡察使の声が、
わずかに震える。
「信仰が、
足りないのです」
その言葉が、
決定的な失敗だった。
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人々の目が、
一斉に冷める。
「足りない?」
「俺たちのせい?」
「……違うだろ」
空気が、
一気に変わった。
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俺は、
何も言わなかった。
何もしていない。
ただ――
奇跡が、起きなかった。
それだけで、
十分だった。
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視界の端に、
淡い文字が浮かぶ。
《宗教的検証:失敗》
《信用:低下》
《責任転嫁:開始》
(……始まるな)
奇跡を求めた者は、
必ず
代償を
誰かに求める。
そしてそれは、
次の“ざまぁ”へと
繋がっていく。
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