第22話 噂は、人より先に辿り着く
噂というものは、
人よりも軽く、
足よりも速い。
辺境の村に、それが届いたのは、
何も起きない日が続いて十日目だった。
---
「……妙だな」
村の見張り台で、
年配の男が呟いた。
「旅商人が、
二組も同じ話をしていった」
「どんな?」
「この辺りだけ、
事故が少なすぎる、ってさ」
それは、褒め言葉ではなかった。
---
昼前。
集会所に、人が集まる。
「王都で、
変な噂が立ってるらしい」
「“壊れない辺境”だと」
「……聞こえはいいが」
村長が、顎に手を当てる。
「目立つな」
その一言で、
空気が少し重くなった。
目立つことは、
この村にとって、
良い兆候ではない。
---
ミレイアが、俺を見る。
「来たわね」
「はい」
「こういうの」
視界の端が、
わずかに揺れる。
《外部認知:発生》
《注目度:低 → 中》
(……始まったか)
---
「王国?」
誰かが聞く。
「いや、
まだ名前は出てない」
「商会か?」
「宗教かもな」
噂は、
必ず“誰かの利益”を伴う。
問題が起きない土地は、
利用価値がある。
それが、
一番厄介だった。
---
「……どうする?」
村長が、全員を見る。
「何もしない」
答えたのは、
俺ではなかった。
「今まで通りだ」
別の年配者が言う。
「特別なことは、
何もしていない」
「それで壊れないなら、
それが正しい」
誰かが、頷く。
俺は、
その判断に口を挟まなかった。
《破綻予測:低》
《介入不要》
(……いい)
---
その日の夕方。
村の外れで、
ミレイアが言った。
「ねえ、レオン」
「はい」
「これ、
あんたのせいになると思う?」
「なります」
即答だった。
「理由は?」
「噂は、
“原因”を欲しがります」
「で、
あんたが一番分かりやすい」
「はい」
彼女は、ため息をついた。
「最悪」
「最悪です」
---
夜。
焚き火のそばで、
子どもたちが笑っている。
大人たちは、
明日の天気と、
作物の話をしている。
平和だ。
だが――
平和は、必ず観測される。
観測された瞬間、
評価が始まる。
評価は、
歪みを生む。
---
視界に、
新しい表示が浮かぶ。
《予測》
《接触者:発生予定》
《時期:近日》
(……来るな)
そう思っても、
噂は止まらない。
なぜなら、
噂はもう、
ここに辿り着いているからだ。
---
翌朝。
村の見張りが、
鐘を鳴らした。
警戒ではない。
異変でもない。
「……旅人だ」
だが、
その声には、
微かな緊張があった。
街道の向こう。
整った装束。
荷の少なさ。
歩幅の揃い方。
――商人でも、
ただの旅人でもない。
噂が、
人の形を取って、
やって来た。
俺は、静かに息を吐く。
(……次は、選ばせに来る)
それが、
壊れない場所に対して、
外の世界が必ず取る行動だった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




