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無能扱いで追放された俺、実はパーティが崩壊しないよう全部やってただけでした 〜戻ってこいと言われても、もう遅い〜  作者: 芋平


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第18話 同じ場所に立てなくなっただけ

 辺境手前の町は、小さかった。


 宿と酒場と、最低限の商店。

 旅人が一晩だけ立ち寄るための場所だ。


「今日は、ここで泊まろう」


 ミレイアが言う。


「はい」


 レオンは、周囲を一度見回してから頷いた。

 危険はない。人も多くない。

 “ちょうどいい”町だ。


 ――だからこそ、油断した。


 酒場の扉を開けた瞬間、

 空気が、わずかに歪んだ。


「……」


 レオンが、足を止める。


 ミレイアは、その理由をすぐに理解した。


 奥の席。

 酒も進まず、料理にも手をつけず、

 一人で座っている男。


 アルディオ・ブライト。


 かつて勇者だった男。


「……あ」


 先に気づいたのは、向こうだった。


 一瞬、目を見開き、

 それから、立ち上がろうとして、やめる。


「……レオン」


 名前を呼ぶ声に、

 かつての自信はなかった。


 酒場の喧騒が、

 急に遠くなる。


 ミレイアは、無言で一歩下がった。

 ――これは、二人の距離だ。


「久しぶりです」


 レオンは、静かに言った。


 敬語。

 それだけで、線が引かれる。


「……ああ」


 アルディオは、乾いた声で答える。


「元気そうだな」


「おかげさまで」


 言葉は、丁寧だった。

 だが、そこにはもう、

 “仲間”の温度はない。


「……座らないか」


 アルディオが、空いている椅子を示す。


「少し、話がしたい」


 レオンは、一瞬だけ考えた。


「短くなら」


 それ以上は、譲らない。


「……勇者資格、失った」


 アルディオが、先に言った。


「知っています」


「……そうだよな」


 苦笑する。


「今は、

 ただの冒険者ですらない」


 それを言うのに、

 どれだけ時間がかかったか。


「俺は……」


 アルディオは、言葉を探す。


「判断を誤った」


「はい」


 即答だった。


 否定も、慰めもない。


「……冷たいな」


「事実ですから」


 アルディオは、視線を落とす。


「戻ってきてくれ」


 ついに、その言葉が出た。


「今さらだって、分かってる。

 でも……」


 拳が、震えている。


「お前がいなくなって、

 全部、分かった」


 レオンは、静かに首を振った。


「戻れません」


「……理由は?」


「役割が、もうありません」


「俺が作る!」


 アルディオが、声を荒げる。


「評価も、報酬も――」


「違います」


 レオンは、遮った。


「あなたが作ろうとしているのは、

 “助けてくれる人の席”です」


 言葉が、突き刺さる。


「僕がやっていたのは、

 “必要だからやる仕事”でした」


 アルディオは、何も言えない。


「それを、

 “見えないから要らない”と判断した」


 淡々とした声。


「その時点で、

 同じ場所には立てなくなったんです」


 沈黙。


 酒場の音が、戻ってくる。


「……俺は」


 アルディオは、かすれた声で言う。


「勇者だった」


「はい」


「でも、

 勇者であることに、

 頼りすぎた」


 レオンは、否定しない。


「……お前は?」


「僕は」


 少しだけ考えてから、答えた。


「壊れる前に、

 気づいただけです」


 アルディオは、

 小さく笑った。


「……それが、一番難しい」


 レオンは、立ち上がる。


「これで、話は終わりです」


「……ああ」


 アルディオも、立ち上がらない。


「レオン」


 背中に、声がかかる。


「……すまなかった」


 レオンは、振り返らなかった。


「謝罪は、

 受け取ります」


 それだけ言って、

 酒場を出る。


 外の空気は、冷たかった。


「……どうだった?」


 ミレイアが聞く。


「終わりました」


「それだけ?」


「はい」


 彼女は、少し考えてから言う。


「……優しいわね」


「そうですか?」


「ええ」


 歩き出しながら、続ける。


「一番残酷な、優しさ」


 レオンは、何も答えなかった。


 酒場の中。


 アルディオは、

 しばらく動けずにいた。


(……戻れない)


 それは拒絶ではない。

 裁きでもない。


 もう、同じ世界を見ていない

 ただ、それだけだった。


 テーブルの上に、

 手つかずの酒が残る。


 彼は、勇者ではなくなった。


 だがそれ以上に――

 支えを切った側として、

 生きていくしかなかった。


 夜。


 宿の部屋で、

 ミレイアがぽつりと言った。


「ざまぁ、ってさ」


「はい」


「派手なのより、

 今の方がきついわね」


「そうですね」


「……後悔が、

 逃げ場なく残るから」


 レオンは、窓の外を見る。


「それが、

 自業自得というものです」


 辺境への道は、

 静かに続いている。


 もう、追ってくる者はいない。


 追える場所に、

 誰も立っていないのだから。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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