第17話 外から見たら、たぶん変な人
レオンという人間は、
隣を歩いていても、ほとんど音がしない。
辺境へ向かう街道。
朝靄の中、荷車も人影もない道を、私たちは並んで歩いていた。
「ねえ」
「はい」
「疲れてない?」
「特には」
即答。
しかも、本当に疲れていなさそうなのが腹立つ。
(……普通、色々あった直後でしょ)
勇者パーティ追放。
国家案件の崩壊。
王国からの正式な誘いを拒否。
人生の山と谷を、
短期間で全部通過した男の態度じゃない。
私は、レオンを横目で見る。
歩き方は一定。
荷物の重さも均等に分配されている。
休憩の提案も、風向きと日差しを見てから。
(ああ……)
この人、
世界を“生活単位”で見てる。
戦争でも、英雄でも、国家でもない。
「今日を安全に終わらせるために、何が必要か」
それだけを考えている。
それが、異常だった。
「ねえ、レオン」
「はい」
「自分が有能だって、自覚ある?」
一瞬、足が止まった。
ほんの一瞬。
でも、私は見逃さなかった。
「……評価基準によります」
「逃げた」
「事実です」
彼は、また歩き出す。
「僕がやっていることは、
誰かがやらなければならないことです」
「でも、誰もやらなかった」
「結果的に」
結果的に。
この人は、いつもそれだ。
「ねえ」
私は、少しだけ声を落とす。
「戻れたのよ?
王国に。
安全な場所に」
「はい」
「怖くなかった?」
少し考えてから、彼は答えた。
「怖かったです」
意外だった。
「でも、
あそこに戻る方が、
もっと怖かった」
「……どうして?」
「また、
壊れる前提で世界を見るのを
やめてしまうからです」
意味は、すぐに理解できなかった。
でも、感覚的には分かった。
この人は、
一度見えてしまったものを、
見なかったことにできない。
昼過ぎ、
簡単な休憩を取る。
レオンは、何も言わずに水筒を差し出す。
私の歩幅、呼吸、汗の量。
全部、見てた。
「……ねえ」
「はい」
「勇者パーティにいた頃、
こんな感じだった?」
「はい」
「そりゃ切られるわ」
思わず、口に出た。
「……否定できません」
淡々と認めるのが、
また腹立つ。
「普通さ」
私は、石に腰掛けて言う。
「有能な人って、
“分かってほしい”って思うのよ」
「そうですね」
「でも、あんたは違う」
「はい」
「分かってもらえなくても、
壊れなければいい、って顔してる」
レオンは、少しだけ考えた。
「……壊れなかったのは、
運が良かっただけです」
「運?」
「はい」
「壊れる前に、
切られたので」
私は、言葉を失った。
(ああ……)
この人、
自分が救われた理由を、
“追放”だと思ってる。
その日の夜。
野営の準備も、
相変わらず無駄がない。
火の位置。
風よけ。
獣避け。
完璧。
「ねえ、レオン」
「はい」
「これから、どうするの?」
「辺境で、
困らない程度に生きます」
「大志とか、ないの?」
「ありません」
即答。
「でも」
少しだけ、
彼は言葉を足した。
「壊れそうな場所があれば、
見ないふりはしません」
それを聞いた瞬間、
背中にぞくっとしたものが走った。
(……この人)
英雄より、
よほど危険だ。
だって――
自分が正しいと思ってない人間ほど、
止められないものはない。
私は、焚き火を見つめながら思った。
王国が探しているのは、
救世主じゃない。
でも、
見つけてしまったのは――
壊れる前に気づいてしまう人間だ。
しかも、
本人はそれを、
“特別なこと”だと思っていない。
……最悪だ。
「ねえ、レオン」
「はい」
「自覚、持った方がいいわよ」
「何のですか」
「自分が、
一番面倒なタイプだってこと」
彼は、少しだけ困ったように笑った。
「……よく言われます」
嘘だ。
絶対、初めて言われた顔だった。
夜は静かで、
辺境への道は続いている。
私は、確信していた。
この旅は、
きっと静かに――
世界の一番嫌なところを突いていく。
しかも、
本人はそのつもりすらなく。
……やっぱり。
外から見たら、
この人、
たぶん相当変だ。
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