第15話 逃げ道は、もう残っていなかった
解散勧告が出てから、三日。
勇者パーティだった四人は、
それぞれ「別の道」を探し始めていた。
――正確には、
逃げられる場所を。
最初に動いたのは、ガルドだった。
王都近郊の傭兵団。
腕力と実績を重視する、荒事専門の集団。
「勇者パーティの前衛だ」
面談の席で、ガルドは胸を張った。
「前線なら任せろ。
命令は多少荒くてもいい」
団長は、無言で書類をめくっていた。
やがて、一枚の紙を机に置く。
「……ここ」
指で叩かれたのは、
リューネ村の報告書だった。
「撤退判断の遅れ。
隊列無視。
指示未確認での突撃」
「……っ」
「腕はある」
団長は言った。
「だが、
指示を聞かない前衛はいらん」
それだけだった。
ガルドは、何も言い返せず、
扉を出た。
次に動いたのは、セシリア。
教会本部。
白い壁と静かな祈りの空間。
「戻りたいんです」
震える声で、彼女は言った。
「私は、
聖女としての務めを――」
司祭は、静かに首を振った。
「戻る場所は、ある」
希望が灯る。
「だが、それは
失敗を背負える者のための場所だ」
「……」
「今のお前は、
“守れなかった象徴”だ」
言葉は、丁寧だった。
だが、容赦はなかった。
「信徒の前に立てば、
彼らは思い出すだろう。
燃えた村を」
セシリアは、泣かなかった。
泣く資格すら、
ないと思ったからだ。
リリアは、研究機関を選んだ。
理論と成果の世界。
感情より、数式が物を言う場所。
「この研究なら、
私の魔法理論が役立つはずよ」
提出された資料を、
研究主任は黙って確認する。
「理論は、悪くない」
希望が生まれる。
「だが」
主任は、眼鏡を押し上げた。
「実地運用の記録が、致命的だ」
「……致命的?」
「想定外への対応が、
すべて“場当たり”」
リリアは、言葉を失った。
「理論を現場に落とせない魔術師は、
ただの机上研究者だ」
「私は――」
「いや」
主任は首を振る。
「お前は、
理論“だけ”を信じすぎた」
扉は、閉ざされた。
最後に残ったのは、アルディオだった。
勇者。
かつては、その名だけで道が開けた。
だが今は違う。
「……面会は、お断りです」
「勇者資格が停止されている方とは――」
「調査中の案件が多く――」
どこへ行っても、
同じ言葉が返ってくる。
守られていた。
だから、自分で築いてこなかった。
それが、今になって、
重くのしかかる。
夜。
四人は、
かつての拠点だった宿に集まっていた。
沈黙が、重い。
「……どこも、ダメだった」
ガルドが、先に口を開く。
セシリアは、黙って頷く。
「研究所も……」
リリアは、目を伏せた。
アルディオは、
何も言わなかった。
言える言葉が、
もう残っていなかった。
「……なあ」
ガルドが、恐る恐る言う。
「レオンのとこ、
まだ……」
その名前で、
空気が凍る。
「やめなさい」
リリアが、即座に遮った。
「もう、
“頼る資格”の話じゃない」
セシリアが、かすれた声で言う。
「……でも」
「でも、じゃない」
リリアは、冷たく言い切った。
「私たちは、
自分で切った」
アルディオが、
ようやく顔を上げた。
「……そうだ」
拳を握りしめる。
「助けを求めるのは、
“戻る”ことじゃない」
「じゃあ、何?」
「……責任を、
全部自分で背負うことだ」
誰も、反論しなかった。
それが、
最後に残った道だと、
全員が分かっていたからだ。
一方その頃。
下級ギルドの詰所では、
荷物がまとめられていた。
「本当に行くの?」
ミレイアが聞く。
「はい」
「王国、
まだ探してるわよ」
「だからです」
俺は、答える。
「評価が集まる場所は、
必ず壊れます」
視界の端に、
淡い文字が浮かぶ。
《現拠点:限界》
《推奨:離脱》
《次候補:辺境》
世界は、
相変わらず分かりやすい。
「……じゃあ」
ミレイアは、少し笑った。
「私も行く」
「いいんですか」
「どうせ、
ここもそのうち巻き込まれる」
肩をすくめる。
「安全な場所に、
問題を連れていく人、
放っておけないでしょ」
俺は、小さく息を吐いた。
「……ありがとうございます」
「礼はいらない」
彼女は言う。
「これは、
“ざまぁの続き”を見届ける役だから」
夜明け前。
俺たちは、
静かに街を出た。
背後で、
王国と勇者の物語が、
完全に終わろうとしている。
逃げ道は、もう残っていなかった。
――選ばなかった結果だけが、
そこに残る。
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