第14話 勇者失格
王国からの発表は、朝一番で行われた。
城下の広場。
掲示板に貼り出された文書の前には、いつも以上の人だかりができている。
「……出たぞ」
「本当か?」
「勇者、失格だって」
ざわめきは、すぐに確信へと変わった。
《王国告示》
《勇者アルディオ・ブライト及びその一党について》
《北部境界・リューネ村事案に関し、重大な判断遅延及び準備不足が確認された》
《よって以下を命ずる》
《一、勇者資格を当面停止する》
《一、当該パーティの解散を勧告する》
《一、再編及び再評価が完了するまで、国家案件への参加を禁ずる》
文章は、淡々としていた。
英雄譚の終わりにしては、あまりにも事務的だ。
「……終わったな」
「勇者様が……?」
「いや、勇者“だった”人だろ」
同情と好奇心が入り混じった視線が、
広場の空気を重くする。
同じ頃、王都の一室。
アルディオは、告示文を手にしたまま動けずにいた。
「……資格停止、だってさ」
笑おうとして、失敗する。
ガルドは、壁に拳を叩きつけた。
「ふざけんなよ……!
魔物は倒しただろうが!」
「倒した後に、
守るべきものが壊れた」
リリアの声は、冷静すぎるほどだった。
「それが、“失敗”ってことよ」
セシリアは、何も言えずに俯いている。
手のひらは、微かに震えていた。
「……私たち、
もう勇者パーティじゃないんですね」
その一言で、
全員が現実を突きつけられた。
「解散、か……」
ガルドが呟く。
「俺は、傭兵団にでも――」
「無理よ」
リリアが、はっきり言った。
「今の評判で、
“指示を聞かない前衛”を雇うところはない」
「……っ」
ガルドは、言葉を失った。
「教会は……」
セシリアが、縋るように言う。
「戻れません」
リリアは首を振る。
「“失敗した聖女”を、
象徴として置く場所はない」
言葉は冷たいが、事実だった。
アルディオは、椅子に深く腰を下ろした。
「……俺が、全部悪い」
勇者としての、
最後の矜持のような言葉。
だが――
「違うわ」
リリアが言った。
「“全部を一人で見られる”って、
勘違いしたのが間違い」
その視線は、
誰も座っていない椅子に向いていた。
「切るべきじゃなかった人を、
切った」
誰も、否定できなかった。
一方その頃。
下級ギルドの詰所では、
いつも通りの朝が流れていた。
「……来たわね」
ミレイアが、掲示板を見て呟く。
「何がですか」
「公式発表」
彼女は、告示の写しを俺に渡す。
「勇者失格。
パーティ解散勧告」
俺は、文書に目を通し、
静かに返した。
「そうですか」
それだけだった。
「……冷たいわね」
「予想の範囲内です」
ミレイアは、俺をじっと見る。
「ねえ、レオン」
「はい」
「今、王国中が探してるの、
“誰を切ったか”じゃなくて――」
少し間を置いて、続ける。
「“誰を切ったせいで壊れたか”よ」
俺は、小さく息を吐いた。
「……だから、
ここも長くは持ちません」
視界の端に、淡い文字が浮かぶ。
《評価構造:再編開始》
《代替要素:探索中》
(探さないでほしいんですが)
同じ日の夕方。
城下の酒場では、
すでに新しい噂が流れていた。
「勇者、調子に乗ってたらしいぜ」
「裏で支えてた奴がいたって話だ」
「追い出したって、本当か?」
噂は、尾ひれをつけて広がる。
英雄は、
一度転ぶと、
皆が石を投げたがる。
夜。
詰所の天井を見つめながら、
俺は考えていた。
(……完全に、表が壊れたな)
勇者という“象徴”が消えた。
次に壊れるのは、
その象徴に依存していた仕組みだ。
視界に、最後の表示が浮かぶ。
《次段階》
《個別崩壊》
《回避可能:低》
俺は、目を閉じた。
もう、後戻りはできない。
だがそれは、
俺が望んだ結果ではない。
切った者たちが、
切られる側に回っただけだ。
ざまぁは、
ついに公式になった。
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