第13話 名前が出てはいけない場所で
王国監査庁の会議室を出た瞬間、
アルディオは自分の立場が、はっきりと変わったことを理解した。
――守られなくなった。
それは処罰よりも、よほど重い変化だった。
「……今日は、これで解散だ」
そう言った声に、勇者としての張りはなかった。
セシリアは何か言いたそうに唇を動かしたが、結局、何も言えずに俯いた。
リリアは一度だけ振り返り、空席だった椅子を見つめてから、無言で廊下を進む。
ガルドは、最後まで振り返らなかった。
一方その頃。
下級ギルドの事務室では、珍しい客が来ていた。
「……王国監査庁、ですか」
ミレイアは、差し出された証章を見て眉をひそめる。
「こんなところに?」
「非公式だ」
落ち着いた口調の男だった。
装飾のない外套。階級を示すものは最小限。
「ここ最近、
このギルド周辺だけ“問題が起きていない”」
「それ、褒め言葉です?」
「調査対象になる程度には」
ミレイアは、内心で舌打ちした。
(来ると思ってたけど、早すぎる)
「で?」
「名前が挙がった」
男は、書類を一枚置いた。
そこには、簡潔な報告文。
下級ギルドにおける補給・割当・事故率低下
特定人物の関与が示唆される
そして、最後に一行。
レオン・グレイ
ミレイアは、思わず紙を伏せた。
「……本人には、会わせない」
「要求はしていない」
男は淡々と言う。
「“確認”だ。
どういう人間か」
「ただの雑用係よ」
「そうは見えない」
その言葉に、ミレイアは少し笑った。
「王国って、
雑用が一番怖いって、
やっと気づいたのね」
その夜。
詰所で帳簿を整理していた俺は、
ミレイアの様子がいつもと違うことに気づいた。
「……何かありましたか」
「バレた」
「何がですか」
「全部」
彼女は椅子に腰を下ろし、ため息をついた。
「王国監査庁。
あんたの名前が、
正式に“資料”に載った」
俺は、手を止めた。
(……思ったより、早いな)
視界の端に、淡い文字が浮かぶ。
《警告》
《注目度:上昇》
《評価介入:危険域》
(やっぱり、評価は毒だ)
「来ますか」
「たぶんね」
ミレイアは、俺を見る。
「どうする?」
少しだけ考える。
「逃げます」
「即答ね」
「捕まる理由も、
守られる理由も、ありませんから」
それは、負け惜しみでも強がりでもなかった。
同じ夜。
王都の宿で、
アルディオは一人、書類を眺めていた。
監査官の言葉が、
何度も頭の中で繰り返される。
不在になった人物
切った判断
記録上の因果
机の上には、
かつて「役に立たない」と言い切った名前。
「……レオン」
声に出した瞬間、
それが禁句になりつつあることを、
アルディオは悟った。
王国は、もう知っている。
誰を切り、
何が壊れたのかを。
そしてそれは――
戻せない種類の事実だった。
詰所の外で、
夜風が吹く。
俺は、空を見上げながら思った。
(ここも、長くはいられない)
視界の端で、
文字がゆっくりと消える。
《推奨行動》
《離脱》
《現在地:不安定》
世界は、
いつも通り正直だった。
――評価され始めた場所は、
壊れ始める。
それを知っているからこそ、
俺は静かに、
次の居場所を探し始めていた。
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