第12話 切れる者から切られる
王都の監査庁は、無駄に広く、無駄に静かだった。
石造りの会議室に並べられた椅子は五脚。そのうち四つに、勇者パーティの面々が座っている。残る一つは空席だ。
「では、聴取を始める」
監査官の声は低く、感情がなかった。
机の上には、リューネ村の被害報告書。赤い封蝋が、何度も開かれた痕を残している。
「まず確認する。魔物群の討伐自体は成功している。異論はないな?」
アルディオは頷いた。
「はい。討伐目標は達成しました」
「だが、村は半壊。住民に死傷者が出た」
監査官は、淡々と紙をめくる。
「この“結果”について、誰が責任を負う?」
沈黙が落ちた。
最初に口を開いたのは、ガルドだった。
「情報が悪かったんだ! ギルドから渡された資料じゃ、あそこまでの数だなんて――」
「資料は“推定”だ」
即座に遮られる。
「推定を疑い、現地で確認するのも含めて、お前たちの役割だ」
「だから、途中で再編成を――」
「遅い」
一言で切られた。
ガルドは、舌打ちしそうになるのを必死で堪えた。
次に、リリアが口を開く。
「私の魔法運用は、想定通りでした。問題は、前線の判断です」
視線が、アルディオに集まる。
「敵の増殖速度を甘く見た。進軍を止める判断が遅れた。
それは、指揮官の責任でしょう」
アルディオの肩が、わずかに強張った。
「……判断は、全体を見て下した」
「“見ていた”つもり、の間違いじゃない?」
リリアの言葉は鋭い。
「補給量、回復回数、撤退ライン。
どれも、曖昧なままだった」
セシリアが、かすれた声で言った。
「……回復が、追いつきませんでした」
全員が彼女を見る。
「事前に、どれくらい消耗するか、
ちゃんと共有されていなかったんです」
その言葉は、静かだったが、致命的だった。
監査官が、ゆっくりと頷く。
「つまり――」
指を組み、結論を口にする。
「準備不足。
判断遅延。
役割分担の不明確さ」
紙を閉じる。
「総合的に見て、これは“組織的失敗”だ」
アルディオが、唇を噛む。
「……全責任は、俺にあります」
勇者としての、正しい答え。
だが、監査官は首を振った。
「それでは困る」
「……え?」
「王国は、“原因”を必要としている。
象徴的な責任者ではなく、具体的な要因だ」
空気が、嫌な方向に動いた。
「ここに記録がある」
監査官は、別の書類を取り出す。
「以前まで、お前たちのパーティには、
“後方管理・補給調整担当”がいたそうだな」
一瞬で、全員の視線が一点に集まった。
――空席。
「現在は、不在」
監査官は続ける。
「その人物が離脱してから、
補給不足、判断遅延、連携不全が頻発している」
リリアが、息を呑む。
「……それは」
「事実だ」
監査官は感情を込めずに言う。
「記録上、そうなっている」
ガルドが、思わず声を荒げた。
「待てよ!
それじゃ、まるで――」
「“その人物を切った判断が誤りだった”」
監査官は、淡々と補足する。
「そう読める」
アルディオは、俯いた。
セシリアの手が、震えている。
「……私たちが、切ったんです」
誰に言うでもなく、彼女は呟いた。
「自分たちで……」
監査官は、少しだけ声を落とした。
「王国としては、
“体制変更による一時的混乱”
という形で処理する案もある」
希望のようで、希望ではない言葉。
「その場合、責任は――」
視線が、再びアルディオに向く。
「勇者個人、ではなく、
“判断を下した者たち”全員に及ぶ」
沈黙。
リリアが、ゆっくりと息を吐いた。
「……つまり」
冷静な声だった。
「誰か一人を切れば、
話は収まる、というわけですね」
監査官は、否定もし肯定もしなかった。
だが、その沈黙が答えだった。
切れる者。
すでに切った者。
もう戻らない者。
空席が、やけに大きく見える。
アルディオは、拳を握りしめた。
(……遅かった)
後悔は、確かにそこにあった。
だがそれは、
王国が求める“解決”には、
何の価値もなかった。
会議室を出るとき、
誰も、前を向いていなかった。
そしてその瞬間から、
勇者パーティは、
守られる側ではなくなった。
切られる番が、
回ってきただけだった。
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