第11話 失敗が許されない場所で
その依頼は、最初から重かった。
《国家緊急要請》
《対象:北部境界・リューネ村周辺》
《内容:大規模魔物群の排除》
掲示板の中央に貼られた赤縁の依頼書を見て、
ギルド内の空気が一段、張りつめた。
「国家案件か……」
「失敗は許されないやつだな」
「勇者パーティが出るだろ」
そんな声が、あちこちから聞こえる。
俺は、少し離れた場所でその紙を眺めていた。
(……リューネ村)
地図を思い浮かべる。
小さな農村。
防壁は低く、避難路も限られている。
(早期対応が前提の案件だ)
魔物群が拡大する前に叩く。
それができなければ――
被害は、冒険者ではなく住民が受ける。
「レオン」
ミレイアが、低い声で言った。
「勇者パーティ、受けるって」
「……そうですか」
「止めなくていいの?」
俺は、少しだけ考えてから首を振った。
「もう、僕の役割じゃありません」
それが、事実だった。
数日後。
街に戻ってきた報告は、
勝利の知らせではなかった。
「……リューネ村、半壊だって」
ギルドの職員が、沈んだ声で言う。
「魔物は討伐成功。
でも、到着が遅れた」
遅れた。
それだけで、結果は決まる。
掲示板に貼られた追加報告には、
簡潔な文字が並んでいた。
《民家被害:多数》
《負傷者:住民含む》
《死者:報告待ち》
ミレイアが、唇を噛む。
「……最悪だわ」
俺は、何も言えなかった。
一方、王国の臨時報告室。
石造りの部屋に、
勇者パーティの四人が並んでいた。
「結果は、確認した」
王国監査官の声は、冷たかった。
「魔物群は排除。
だが、村は壊滅的被害」
アルディオは、歯を食いしばる。
「……俺たちは、最善を尽くしました」
「最善?」
監査官は、書類を一枚めくる。
「到着時刻が、想定より二時間遅い。
理由は?」
「……途中で、
敵の規模が想定以上だと判断し、
再編成を――」
「判断が遅い」
即答だった。
「その二時間で、
村は防衛不能になった」
セシリアが、小さく息を呑む。
「私……
回復が追いつかなくて……」
「それは、事前想定の範囲だ」
監査官は感情を挟まない。
「想定できなかったのは、
お前たちの準備不足だ」
リリアが、唇を噛む。
「……情報が、足りなかった」
「情報は、現地で集めるものだ」
ガルドが、ついに声を荒げた。
「俺たちに、
全部押し付ける気かよ!」
その瞬間、
空気が完全に凍った。
「勇者」
監査官は、アルディオを見る。
「お前は、
“失敗しない前提”で動いていたな?」
アルディオは、答えられなかった。
その夜。
ギルドには、重い沈黙が落ちていた。
「国家案件で、
民間被害を出した」
「……もう、言い訳できないな」
「勇者、どうなるんだ?」
噂は、すぐに広がる。
英雄は、
失敗した瞬間に、
ただの“責任者”になる。
詰所で、ミレイアが言った。
「……来ると思う」
「何がですか」
「王国の人間。
あんたのところに」
俺は、ゆっくり息を吐いた。
「来ないでほしいですね」
「無理よ」
彼女は言う。
「“問題が起きなかった場所”が、
あんたの周りだけだって、
もう気づかれてる」
視界の端に、淡い文字が浮かぶ。
《注意》
《影響範囲:拡大》
《成功者側:不安定化》
(……世界は、
ちゃんと線を引いてる)
成功を前提に動く者たち。
失敗を想定して動く者。
どちらが生き残るかは、
もう明らかだった。
同じ夜。
宿の一室で、
アルディオは一人、座っていた。
机の上には、
リューネ村の報告書。
「……俺が、判断を誤った」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
勇者として。
リーダーとして。
取り返しのつかない失敗だった。
だが――
後悔が形になるのは、
もう少し先の話だ。
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