第9話：第四の罪：嫉妬の創造力と共感の調律
1. 創造の力と絆の構造分析
神尾卓は、レヴィアタンの嫉妬が愛の欠乏から来る、極めて人間的な渇望であり、その裏に有り余る創造のエネルギーがあることを見抜いた。
「レヴィアタン。あなたは、愛を失った後、人間同士の絆を観察し続けた。それは、他者の才能や成果を、誰よりも深く正確に分析するという、あなたの洞察力の最たる発揮でした。あなたは、何を見出しましたか？」神尾が問いかけた。
レヴィアタンは、その孤独な視線で、まるで天界の構造図を見るように、人間の絆を分析した結果を語り始めた。
「私は、『神が与える愛』と『人間が創り出す愛』の違いを研究しました。神の愛は『上からの光』であり、受け取るものです。それは信仰を生みますが、対等な絆は生まない。」
彼女は続けた。「しかし、人間が創る愛は、『互いに求める渇望』から生まれる。彼らは、互いの欠落を埋め合うことで、その愛を創造する。私は、その創造の構造を、誰よりも深く理解した。それは、他者の痛みに共感し、その欠落を満たすという才能の裏返しです。」
2. 神尾の評価：共感の調律者
神尾は、ベルフェゴールの審問で見せた合理的思考とは対照的に、レヴィアタンには温かい共感をもって向き合った。
「あなたの嫉妬は、慈愛の裏返しです。あなたは、他者が愛し合っている姿を見た時、『なぜ自分だけがこの喜びを共有できないのか』と深く傷ついた。それは、あなたが他者の喜びを、まるで自分のことのように共感できるからではありませんか？」
レヴィアタンは、初めてその冷たい緊張感を解いた。彼女の「嫉妬」が、人間的な苦悩として扱われたことに、深い安堵を覚えたようだった。
「旧き神は、私の創造力が、人間が互いに交わす真の絆を強固にし、神への信仰を無意味なものにすることを恐れた。ゆえに、私の共感の才能を、破壊的な嫉妬と断罪した。」
神尾は、レヴィアタンの才能が、神尾の目指す**「誰も孤立しない共存の仕組み」の精神的な核**となり得ると確信した。
「あなたの洞察力と共感の才能は、この新しい天界には必要不可欠です。私たちは、個性の強すぎる者も活かせる適材適所を目指しています。しかし、その個性ゆえに孤立したり、摩擦を生んだりする者もいるでしょう。」
3. 次なる課題：絆の創造
神尾は、レヴィアタンに新たな役割の核心を提示した。
「レヴィアタン。あなたの創造力は、絆を生み出します。あなたの役割は、『天界心理と共感の調律者』です。あなたは、孤独や摩擦を抱える者たちの間に立ち、互いの欠落を埋め合うための**『真の絆の結び目』**を創造してほしい。」
「あなたの孤独の痛みは、共感力へと昇華し、組織の歪みを見抜き、すべての人に公平な成長の機会を与えるための観察力となる。それが、あなたの嫉妬が果たすべき、慈愛の役目です。」
レヴィアタンは、愛への渇望を公的な役割として与えられたことに、強い使命感を覚えた。しかし、彼女には一つ、最後の懸念があった。
「私が創り出す**『絆』は、旧き神が定義する『絶対的な愛』とは異なります。それは不安定で、傷つきやすいものです。その愛の創造**を、神は本当に許容できるのですか？」
