第5話:第五の罪:暴食の献身と、天界資源の闇
1. 審問開始と暴食の召喚
神尾卓は、タブレットのタイマーをリセットし、次の審問に移る準備を整えた。彼の隣の新しき神は、神尾の進行速度に満足しているようだった。
「神様、次は第五の罪、暴食です。彼の罪の根源は『仲間を飢えさせない』という強い義務感と献身にあります。旧き神が彼の力を恐れた真の理由を掘り下げ、彼の慈愛を天界資源管理の英知へと昇華させます。」
新しき神は微かに頷いた。「暴食は、規範の逸脱だ。お前が、その逸脱の裏に慈愛を見つけられるか、見極めさせてもらおう。」
神尾が次のアジェンダにチェックを入れると、会議場の中央に再び光が灯る。
現れたのは、ベルゼブブ。その体躯は巨大で威圧的だが、その眼差しには、仲間を守ろうとする義務感と、それに伴う疲弊の色が濃く滲んでいた。彼は、神々への不信感を隠そうともしなかった。
2. 暴食の定義と神尾の問い
「ベルゼブブ。あなたの罪は、神の定める節度ある規範からの逸脱、すなわち暴食と断じられた。」新しき神が告げる。
神尾は、ベルゼブブの記録を精査しながら、落ち着いた声で語りかけた。
「ベルゼブブ。あなたは仲間への過剰な献身と備蓄力を持っていました。あなたの記録で最も目立つのが、『天界の七飢饉』の際の行動です。あなたは、なぜ神の定めた『節度ある分配』を破り、食糧を独断で過剰に備蓄したのですか? その結果、あなたは独占欲という罪を問われました。」
ベルゼブブは、その重々しい巨体を動かし、苦悩に満ちた声を響かせた。
「神の定めた規範は、飢えを知らない者の空論だ。飢饉が始まったとき、神殿の管理部門は**『節度を守れ』と命じ、備蓄を禁止した。神は、『信仰があれば満たされる』**と謳った。」
彼は、憤りを込めて続けた。「しかし、私は見た。無益に餓死していく多くの仲間を。彼らは、神への信仰だけでは生きられなかったのだ。飢えは、精神ではなく肉体を蝕む。私は、神の目を盗み、自分の仲間たちのためだけに、食糧を過剰なまでに集めて隠した。」
3. 神の支配構造と絆の力
「それが暴食というなら、私は何度でも暴食を犯すだろう。仲間を飢えさせないという、ただ一つの義務のために。」ベルゼブブは、その行為が悪徳ではなく正義であったことを主張した。
神尾は、ベルゼブブの言葉に静かに耳を傾けた。彼の行動は、旧き神の統治規範である**「絶対的な服従と信仰の独占」**に対する、最も強烈な異議申し立てだった。
神尾はベルゼブブの前に歩み出た。
「あなたは、飢饉という現実を前に、神への信仰より仲間との絆を優先しました。旧き神は、あなたの備蓄力自体を恐れたのではありません。あなたの**『仲間を最優先する絆』が、神への絶対的な信仰の独占を崩壊させることを恐れたのです。ゆえに、あなたの備蓄力を暴食という悪徳**にすり替えた。」
神尾は、次の質問をするために、ベルゼブブの記録のさらに深いページに目を向けた。そのページには、飢饉の際にベルゼブブが独断で整備した隠された備蓄ルートに関する記述があった。
「ベルゼブブ。あなたは、備蓄を実行した際、その分配システムについて、誰にも相談せず、極秘裏に進めましたね。その緻密な資源管理の才能について、詳しく伺います。」