第15話:第二の罪:強欲の市場経済と公平な分配
1. 創造と公平性の連鎖
神尾卓は、マモンの強欲が、創造主の全能性を否定するほどの世界発展への衝動であると定義した。彼は、マモンが人類に与えた**『市場経済』**の概念の真意を掘り下げようとした。
「マモン。あなたは、人類に**『取引』と『通貨』の概念を与え、独占的な信仰経済を破壊しました。あなたの設計した『市場経済のシステム』は、旧き神の定めた『富める者だけが富む』という不公平な構造に対し、どのような公平性**をもたらすと考えていましたか?」神尾が問うた。
マモンは、その視線を神尾に向け、経済原理に対する絶対的な自信を持って答えた。
「神の経済は、『神に与えられる富』という『有限なパイの奪い合い』でした。それは停滞と不公平しか生まない。私のシステムは、『誰もが新たな価値を創造することで、パイそのものを無限に大きくする』という発展の原理に基づいています。」
彼は続けた。「通貨とは、創造主の代わりとなる、普遍的な価値の証明書です。これがあれば、人類は神の許可なく、自らの労働と創造性によって富を獲得できる。私の富への執着は、**『創造した富は、その創造者に正当に分配されるべきだ』**という、最も公平な分配への執着なのです。」
2. 神尾の評価:発展の推進力
神尾は、マモンの強欲の根源にあるのが、『創造性と労働に対する正当な対価』という倫理的な公平性であると確信した。
「あなたの強欲は、創造への情熱と分配への倫理観の極致です。旧き神は、通貨という普遍的な価値が、神への信仰という古い価値を相対化し、独裁的な支配構造を崩壊させることを恐れた。だからこそ、あなたの創造の才能を強欲という悪徳にすり替えた。」
神尾は、マモンの才能が、新しい天界の経済システムの柱となることを宣言した。
「あなたの才能は、天界と宇宙経済圏全体の発展に必要不可欠です。私たちは、ベルフェゴール(効率化)、ベルゼブブ(資源管理)、レヴィアタン(共感)、そしてアスモデウス(信頼構築)によって、安定した基盤を築きました。しかし、この基盤を持続的に進化させるためには、あなたの**『価値を創造し、経済を動かす力』**が必要です。」
3. 次なる課題:富の独占否定
神尾は、マモンに新たな役割の核心を提示した。
「マモン。あなたの富への執着は、時に私的な独占という過ちを生む可能性があります。旧き神は、その独占が神の主権を奪うと恐れた。新しい天界が恐れるのは、再び一部の者が富を独占し、不公平を生むことです。」
神尾は、マモンの才能を公的な慈愛へと昇華させるための、最後の問いを投げかけた。
「あなたは、自身の富の創造力を、『世界を進化させる』という共通の目的のために使い、『富を創造したら、自らの手で最も公平に分配する』という義務を負えますか?あなたの強欲を、慈愛の精神で富を分配する力へと転換できますか?」
マモンは、その問いに、深く、そして長い思索の時を費やした。彼にとって、富を創造することは喜びだが、それを手放すことは自己の否定にも繋がりかねない、最大の試練だった。