第12話:第三の罪:色欲の協調性と外交の英知
1. 魅了の真髄と紛争解決
神尾卓は、アスモデウスの**「色欲」の真髄が、いかなる相手からも信頼と協力を引き出すという外交の英知であることを見抜いた。彼は、アスモデウスが過去に解決した種族間の紛争**の記録を提示した。
「アスモデウス。あなたは、その魅力を使い、旧き神の組織内で最も難解だった種族間の紛争を、三年で完全に解決していますね。記録によれば、あなたは両陣営のリーダー全員から**『最も信頼できる調停者』と見なされていた。その協調性(共存)を生み出す力**について、詳しく伺いたい。」神尾が問いかけた。
アスモデウスは、自らの力を**「愛され力」という単純な言葉で片付けられることに、わずかな退屈を覚えていた。彼は、神尾がその力の本質**を見抜いたことに、興味を示した。
「私は、ただ正直だっただけです。紛争の原因は、**『神への信仰の度合い』や『権限の優劣』といった、外部から植え付けられた不信感にありました。私は彼らに『その紛争を続けて、あなたが心から得るものは何か?』**と問いかけました。」
彼は続けた。「私は、どちらの側にもつかず、誠実に、そして誰よりも熱心に彼らの痛みと主張に耳を傾けた。彼らは、『アスモデウスは、神の都合や古い慣習ではなく、純粋に我々の平和を望んでいる』と信じた。その信頼が、魅了と誤解されただけです。」
2. 神尾の評価:信頼の構築
神尾は、ベルゼブブ(暴食)の備蓄管理、レヴィアタン(嫉妬)の共感調律、そしてアスモデウスの信頼構築が、新しい天界の組織構造を成す確かな柱となり得ると確信した。
「あなたの魅力は、理性に基づいています。それは無作為の愛ではなく、徹底した公平性と、相手の真のニーズを理解する洞察力から生まれる。旧き神は、その**『誰もがあなたを愛する』という現象が、神への絶対的な信仰を上回る『個の引力』**となることを恐れた。」
神尾は、アスモデウスの罪を、改めて美徳として定義した。
「あなたの愛され力は、最高の信頼構築能力です。それは、いかなる外交の場面においても、敵対者でさえも味方に変えることができます。これこそが、私が目指す**『協力と共存の仕組み』**において、最も重要な潤滑油となります。」
3. 次なる課題:力の目的化
神尾は、アスモデウスの才能を私的な親愛から公的な外交力へと昇華させるための最後の課題を提示した。
「アスモデウス。あなたの魅力は強力すぎます。その力は、時に無意識に他者の理性を麻痺させ、過剰な依存を生み出す。旧き神が**『色欲』と断罪した理由の一つは、その制御不能な依存性**にあります。」
神尾は、鋭い視線をアスモデウスに向けた。
「あなたは、その魅力を、『愛されること』という目的ではなく、『協力と共存を生み出す』という道具として、理性的に制御し、目的化できますか?あなたの真の責務は、愛されることではなく、信頼を構築することです。」
アスモデウスは、初めて自らの力の持つ責任の重さを認識したように、真剣な表情を浮かべた。
「...私の力は、両刃の剣。その依存性が、私が常に抱えていた孤独の源でもありました。その力を目的化する。それが、私の愛され力に理性を与える唯一の方法でしょう。」