第11話:第三の罪:色欲の引力と愛への嫉妬
1. 審問開始と魅了の召喚
神尾卓は、共感の調律者となるレヴィアタンの配置を終え、心なしか会議場の空気全体が以前より温かく、穏やかになったのを感じていた。彼は次のデータ、**第三の罪:色欲**を開いた。
「神様、次は第三の罪、色欲です。彼の才能の根源は、制御不能な魅力と愛され力。旧き神の記録では、彼の引力が神の独占すべき絶対的な愛を分散させ、神自身が人間的な嫉妬を抱いたため断罪されました。」
新しき神は、これまでで最も長く沈黙した。神の玉座の周囲の光が、微かに揺らぐ。
「アスモデウスの魅力は、秩序を乱す。それが純潔なものであろうと、肉欲に基づくものであろうと、彼の引力は信仰の方向性を変える。お前は、その制御不能なエネルギーに、どう理性と目的を与える?」
神尾は冷静に答えた。「愛されることは罪ではありません。その魅力を、信頼と協力という建設的な目的のために使えば、それは最高の外交力となります。」
神尾がアジェンダにチェックを入れると、会議場の中央に、華やかで、どこか無邪気な光と共にアスモデウスが召喚された。彼は、そこに立っているだけで、周囲の視線と空気を完全に掌握する、圧倒的な引力を纏っていた。
2. 色欲の定義と神尾の問い
「アスモデウス。あなたの罪は、制御不能な愛され力が、神の独占すべき愛を奪ったこと。ゆえに、色欲と断じられた。」新しき神が告げる。
神尾は、アスモデウスの持つ魅了の力が、人間的な欲望を超えた純粋な親愛の念を引き起こすものであると分析していた。
「アスモデウス。あなたは、神の定めた人間関係の規範を破り、多くの神官や信徒の愛をあなた自身に向けさせた。神の記録は、それを**『淫蕩』**と断じています。これは、真実ですか?」
アスモデウスは、神尾の問いに、軽く肩をすくめてみせた。彼の魅力は、審問官である神尾の平静さえも試しているようだった。
「私は、魅了したわけではない。ただ、彼らの求める愛を、素直に受け止めただけです。私は、嘘偽りのない親愛の念を返した。その結果、彼らの心は、絶対的な服従を要求する冷たい神の愛よりも、私の率直な愛を選んだ。それは、私の罪でしょうか? それとも、神の愛が偽物だった証明でしょうか?」
3. 神の嫉妬と魅力の真実
神尾は、アスモデウスの言葉に込められた無邪気な真実と、旧き神の人間的な嫉妬との対立を確認した。
「旧き神が恐れたのは、まさにそれです。あなたの愛され力が、神の愛への嫉妬を刺激した。神は、自分自身が独占すべき愛が、あなたという個人の魅力によって分散させられたことに、耐えられなかった。」
神尾は続けた。「あなたの魅力は、愛を分散させる力ではありません。それは、いかなる摩擦も乗り越え、相手から信頼と協力を引き出すための、最高の交渉力であり、外交力です。」
神尾は、アスモデウスの記録の深いページに目を向けた。そこには、彼が魅了したとされる人々が、いかに部門間の対立や紛争を、彼の仲介によって解決してきたかという記述があった。
「アスモデウス。あなたは、その魅力を使い、旧き神の組織内で最も難解だった種族間の紛争を、三年で完全に解決していますね。その協調性(共存)を生み出す力について、詳しく伺いたい。」