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師匠と出会い

 灰色の毛並み、ライオンとオオカミを掛け合わせたような魔物ドッドが、飽食の魔物にとびかかった。タグルにいいところを見せたいという焦り。それが、人間のように二足で飛び上がろうとしたトッドを不格好にさせた。バランスを崩し、彼はそのまま敵の顔にくみついた。その焦りから、陣形は崩れ、ドッドは数歩前にせり出していた。

「ピュグギュウウウ」

 妙な奇声を上げる魔物。飽食の魔物はどこにでも生息し、魔物もひとも好き嫌いなく食らってしまう。魔力も、物質もなにもかも飲み込む。巨大なウツボカヅラのような肉食植物の魔物だ。地面に張り付く太い根、ツンと鼻をさす刺激臭が漂う。

「くあっ!」

 日差しにすけるさわやかな青髪を持つ青年タグルは、りんとととのった鋭い目を大きくみひらき、鬼気迫る状況に相棒の名を叫んだ。

「大丈夫か!トッド!」

 飽食の魔物が世界を覆って以来、魔王の飢餓は満たされることがなかった。討伐後も不死ゆえに殺せない魔王は、世界中から集まる金銀財宝を貢ぎ物として捧げられることで、その飢餓を抑えつけられていた。

「俺が……!」

 力を使おうとしたタグルに、トッドは彼の活躍が見たくないあまり、魔物にかみついた。

「グルルル!」

「無茶をするな!」

 仕方なくタグルは、トッドの脇から魔物に攻め入ろうとする。しかし、魔物には葉に二つの目があった。

「仕方ない……」

 タグルは右の草むらに入った。ドッドは焦りを覚える。また彼は一人で仕事をおえてしまう。これ以上無茶をしてほしくない。劣等感もあるだろう。なぜなら彼は初めてドッドを元人間であると認めてくれた。もっと認めてほしいのだ。


 彼はいつも戦闘時に彼の前にでる。おかげで彼に拾われてからドッドは傷一つついたことはない。昨日の戦闘終了時にも、彼はドッドの自慢のたてがみを撫でて笑った。その時も彼は冗談交じりに言っていた…。

『お前は俺の奴隷だ、そして俺は師匠の奴隷だ』

 友情は長くつづいた。しかしいつもいつも、重要な時にタグルはトッドの見せ場を奪ってしまう。それだけじゃない。彼だけがリスクをかし、魔物の注意を引いているのだ。彼の盾は師匠のものだという。しかし彼の盾は、彼の体のあちこちに傷をつける。


 それより前に幾度か聞いたこともある。

『師匠にもらった盾だ、俺の実力以上の攻撃は俺の体を傷つける、大丈夫、師匠が直してくれるし』

 トッドは師匠と呼ばれる人が、恐ろしかった。疑ってもいたのだ。本当にそんな人がいるのか。なぜなら数百の呪文と魔術を使いこなすというのだ。


 初めて会った時すでに、タグルはドッドの本性をみぬいていた。

『君は魔物化の魔法をかけられた元人間だろ?』

 そういう魔物も多くいる。しかし魔物がいかに知性を持とうが、この世界の人間は、見た目意外は気にしやしない。ドッドは滅びた王国の召使で、ひそかに王国の復活を望んでいたが、もはやこんな姿では無理だろうと思っていた。そんなドッドに手を差し伸べて、タグルはいった。

『夢はあるかい?夢ある有望な仲間をあつめているんだ、師匠のためにね』

 戦闘が終わると、彼への感謝の回想に浸ってしまう。こういうところは人間らしい。



 左の草むらから音がした。

「今だ!」

 トッドはタグルの意をくんで、右の葉にかみついた。タグルはトラップスキルを発動する。魔物の右側に自動で射出される氷の刃の魔法陣が展開された。

「ぐうう!!」

 魔物に迫る氷の刃、すんでのところでもう一つの目のついた葉で防いでしまった。

「これで、十分さ」

 タグルは反対側から剣を突き刺す。魔物は弱って衰弱した。これ見よがしにトッドは魔物の首を引き裂いた。


「うわっ!!」

 子供の声が響いた。二人は顔を見合わせる。やがてくさむらをわけいると、子どもの声が続いて聞こえた。

「かわいい子犬ちゃんですね」

 草むらから魔術師の子供がでてきた。というより、タグルが首根っこを捕まえてじっとみていたのだ。

「何をしていたんです?」

 奇妙にも敬語をつかうタグル。子供はじーっと二人をみわたして口元にてをあてた。真っ赤な髪で目元が隠れて表情はみえない。

「おい、ガキあぶねえぞ」

 おろされると子供は、杖を抱えて、そそくさと獣道の先にいってしまった。


「おい、どこまでいくんだよ」

 子供の体力は多かった。

「わんちゃん、なあに?」

「お前の自由なふるまいにつきあってたら、つかれるっていってんの!」

 子供の魔術師は口に手を当ててしばらく考えた。

「うーん」

 何かをおもいついたように、ポン、と手を叩いたかと思うと、ひらけた場所、大樹の傍らに腰をおろした。


 食事をした。酒の席だった。喧嘩になった。

「悩みですかあ?」

 トッドは悩みを打ち明けた。

「いい方法がありますよ」

 英雄の伝説を語って聞かせた。

「かつて魔王は世界を覆った飽食の魔物を従えていた、魔王は人々を恐怖させ、ありとあらゆる魔物を支配下においた、英雄はたちあがり、人々の期待を背負って魔王に戦いを挑んだ、しかし敗北し、数年の年月がたち諦めた人々の前に一報がとどいた、“魔王が打ち取られた”それは、英雄の仲間の魔物が、魔王を打ち取ったという知らせだった」

 ドッドは腕組みをしながら、少年の話をじっときいていた。

「それで慰めてるつもりか?」

「……この話はほんの小話さ、誰でも知ってるだろう?君は僕の瞳さえ畏れている、きっと魔物になったことに負い目を感じているんだ、いつも魔物の目をみてしまう、君自身が、彼を庇ってしまうのでは」

 そして彼はタグルのようにドッドのたてがみをなでた。

「まずは劣等感をどうにかしよう」



 翌日の朝だった。食事をしている時分に声が聞こえる。

「ドゥブブブル」

 それはどぶスライムの特徴的な声だった。

「昨日に引き続き、ひどい匂いの魔物が続くな」

 ドッドは繊細にうごかない前足の指でひっかき傷をつけながら鼻をふさいだ。

「あ……」


 タグルが腕を回しながらスライムににじりよる。

 『また、タグルが無理をする…』

 ドッドが顔をしかめた、そのとき魔術師の子供が小走りにタグルの正面にでていった。

「バカ野郎!」

 その声から少し遅れた後だった。

「ぐわっ!」

 空気をつんざく音!子供はスライムの伸びた体に吹き飛ばされ、5メートルほど先の茂みに突っ伏してしまった。

「ガキィ!!」

 叫んでかけていく。しかしタグルが鬼気迫る怒声で静止した。

「助けにいくな!」

 ドッドが顔を引きつっていると、タグルは申しわけなくおもったのか、無理にひきつった笑顔を見せた。

「俺を信じろ」

 子供の姿は放置したまま。しかし信じるほかはない。


「今だ!!」

 トッドは弾きとばされてしまった。

「だめか」

 しかし、タグルは草村をみて、にやりと笑った。


  魔導士の子供が後ろからかけてきた、無事だったのだ!。

「あっ」

 背後からタグルがささやく。子供も続けた。

「できるはずだ!!ドッド」

「できるよ!」

 その言葉に、トッドは思い出した。魔術師の子供が語った「劣等感をどうにかしよう」という言葉を。そして、悟ったのだ。

「俺の苦手を克服するために!?」

 魔術師の子供が魔法でドッドの筋力をあげる。ドッドはそのまま、スライムの顔面をひきさいた。魔術師を背中に背負ったまま、ドッドはスライムの心臓核を引き裂いた。美しい鼻先に切り傷ができたが、それは名誉の称号だった。



  数時間後、再び開けた場所で夕食の時間だ。

「魔力はあつまったな。」

「さあ、できたよ」

 魔術師の子供が料理をふるまう。

「3時間だぞ、ずいぶんかかったな」

「へへへ」

 子供は、笑うタグルに瓶をわたす。ポンと開けると、ツーンとしたアルコールの匂いがただよってくる。

「酒が造りたかっただけかよ!」


 魔術は周囲の時間を進める。そうはいっても発酵には時間がかかるだろう。どうやらあの時、倒れた魔術師の子供は時間をすすめていたらしい。相手の攻撃を受けるふりをして地面にのびていた。

「しかし、これだけのために?」

 子供は笑った。そしてタグルは答えた。

「旅の仲間を一人前にするのも、リーダーの役目だ」

 タグルもまた、英雄にあこがれていたのだ。


「ぷはあ、うめえ」

「だ、誰だこの女」


「師匠だよ、いわなかったか?」

「レイナってんだ、よろしくな」

 伸ばされた手に、お手、で返す。先ほどの子供は豪胆な肩をさらけだした絶世の美女にかわっていた。魔物でなければ興奮して喜んだだろう。


「リングはどれだ?」

 師匠はさがしていた。それは“主従関係”のリング。薄い青のグラデーションであり、魔力を共有する指輪だ。タグルとドッドはすでにお互いにつけている・

「まさか、あの話も本当?」

「ああ、そうだ、お前の魔力は私がもらう、私が若さを保つためにな」

 師匠は指輪をはめた。まさか、本当に師匠なんて人がいるなんて、これまでドッド

が優しくされてきたのは、この師匠の相手をさせるため?師匠は不快なほどに豪胆にわらった。


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