第5話 朝5時
「湊くん、明日の朝5時に起きない?」
飛鳥がにっこりと笑う。
「5時?」
早すぎないか、と思う。
「少し出かけよう」
成績優秀、素行良しの少年が妙な提案をした。
「にしても、まだ暗いし寒いし」
ぶつぶつと湊は文句を言いつつ薄暗い道を歩いていく飛鳥についていく。
「まぁまぁ。これは勉強の一環ということでそれと静かにね」
まだ、教員のいる宿舎に近いのでこの優等生は教師にバレたら頭が痛すぎるだろう。
「まだ薄暗いこの時間に森に獣が現れるという。それは教師たちですら気づいていない密かなら脅威。それを隠れて討伐して何もなかったかのように過ごす。これ以上なく最高な試練はないよ」
「う、うん…?」
ちょっと理解できないかもしれない。
「飛鳥に湊くんだ。やっほー!」
そんな声が聞こえると思えば、同じクラスの女子がいた。
快活な歩みでこっちに来る。
話したことあったっけ?
「咲奈ちゃん。また来たんだね」
名前は折 咲奈。
茶色のボブの髪が柔らかく揺れる。
「湊くん、こんにちは。っていうよりおはようか。咲奈って言います。気軽に呼んでね!」
「あ、うん。おはよう」
女子に慣れない湊は若干一歩下がる。
「夜魔獣討伐にレッツゴー!」
咲奈は顔を赤くしている湊と仕方なさそうな顔をしている飛鳥の手を引っ張ってぐんぐん進んで行った。
夜魔獣はその名の通り夜に出現する獣。
倒す方法は1、物理攻撃 2、夜魔術
後者は夜専用の魔術で普通の魔術なら夜になると攻撃速度が落ちるが夜魔術は夜に特化しているので高速で攻撃が出せる。
「湊くん、暗いから下をしっかり見てね。たまに無限の穴があるから特に夜は」
「無限の穴?」
「そう。夜の人があまり立ち入らない場所に無限に落ちる穴があるんだ。あんな感じで」
と、飛鳥は斜め前方を指差した。
「た、助けてよー!!」
そこにはその無限の穴とやらに落ちかけている咲奈がいた。
「無限の穴の周りは地盤がしっかりしていない。だから慎重に助けないと」
飛鳥は咲奈の手を掴んで引っ張る。
湊も地面に注意しながら引っ張った。
「せーの」
と2人は一気に咲奈を引っ張った。
「抜けた…」
完全に脱力している咲奈。
「いつも、着いてくるたびにハマってるね」
「仕方ないじゃない。見えないんだから」
「目を凝らせば見えるよ」
大人しそうな口調の中に怒っている気配を潜ませている。
足手纏いでも言いたげだ。
「咲奈さんは飛鳥くんに背負ってもらえばいいんじゃないですか?」
「え、いやだよ」
湊の提案に飛鳥が即断る。
なんか、可哀想になってきてしまう。
「さ、先は長いから気をつけて歩こう」
それから3人は森の奥の方まで辿り着いた。
「ほら、いたよ」
「本当だ。けどなんか、可愛いね」
まるで綿菓子のような見た目の獣たち。
と言っても色は毒々しい紫と紺色とかなのだが。
「見ていてよ」
飛鳥が魔獣たちに向けて手をかざす。
「消えよ。魔の根幹よ」
そのセリフと共に飛鳥の手から紫色に光る光線が飛び出していく。
そして…。
「一撃だぁ」
夜魔術を使いこなすにはまず、ここが夜だと認識して力を昼前以上にためる必要がある。
そして、放つ。
薄暗い状況で敵に向けて一ミリのズレもないようにして放つのは至難の業だ。
「こんな感じ」
飛鳥は珍しく得意げに笑った。
そして、湊にも夜魔術を教えてくれた。
咲奈はその邪魔になる魔獣たちを倒している。結構強いみたいだ。
「燃えろ!」
叫びながらするのは気合いを入れて魔術の強度を増させるためだとか。
「出来た。飛鳥くん」
「うん。やっぱり才能あるよ。湊くんは」
そんな風に笑っていられたのは今だけだった。
まだ、知らなかったのだ。こちらの世界の夜の真の恐ろしさというものを。
「飛鳥!来て!」
咲奈の叫び声が聞こえたと思えば、獣の唸る音がした。
ふと飛鳥の方を見ると真っ青な顔でそちらを見ていた。
そしてぽつぽつと言う。
「…まずい…かも…湊くん、すぐに…先生を呼んで来て!」
飛鳥の焦った声が事の緊迫さを如実に表しているようで、金縛りにあったように湊は最初動けなかった。
けども、今はそれどころじゃなかった。
ありがとうございました!
湊たちに何が起きたのか…。
次回もよろしくお願いします。




