間話-アシタ視点-
1話2000字前後が読みやすいかなと思ってますがどうでしょうか。
アシタはセバスとトマをさん付けて呼んでいます。――
雨になり、日雇いの仕事が無くなったアシタは安い飲み屋で叫んだ。
「金がねぇ!」
わざわざする店内で店主がみんな一緒だよ!金払いな!と言えば笑いに変わる。
バーカとヤジが飛ぶ中で友人のバルが笑いながらアシタに聞く。
「助けてやろうか?」
「あぁ金だけくれ」
それは無理だなと言いながら煙草を付けようとしてアシタに止められる。
「ソフィ「皇女様が匂いが移るって?」
被せて言われた言葉にイラッとしてタバコを奪って火をつけた。
『お酒もタバコも嫌いよ。強制する気はないけれど私は,嫌いよ』
あの目で睨まれるとなんとなく自分が悪い気がしてしまう。
アシタは言いなりになどなる気はないが、つい思い出して伸ばす手が怯んでしまっていた。
そんな様子を読めない笑顔で見る友人はバルという。
正体は知らない。
ただ貴族か大商人の息子かのどちらかである事は着ている服と仕草を見ていればわかる。
「ほらこれやるから元気出せ」
そんなバルはアシタを揶揄うためだけに持って来た地方新聞を見せた。
「あ?新聞なんて……」
どうでもいいといいかけてやめた。
新聞の4面に小さく『ハクア』の名前があったからだ。
「許婚だろ?」
今年の文官試験に上位合格したことが書かれてある新聞にアシタの顔は険しくなった。
「こんなの1週間前に結果出て知ってるに決まってんだろ、今更なんだよ」
アシタが忌々しげに机を蹴り上げると店主の鉄拳と怒鳴り声が飛んでくる。
――なんなんだよ
アシタは今日はつくづく厄日だと思う。
日雇いの仕事はなくなり表情の読めない友人から奢ると言われついて行ったら嫌な奴の記事なんか見せられる。
こんな日は帰った方がいい。
会話を早急に切り上げてアシタはいつの間にか帰る場所となったは外観だけは立派な屋敷に走る。
――なんだ
いつもの様に裏門から入ったアシタは、裏門から出ていく赤いマントの人とすれ違った。
勝手口から入るとアシタの養父、セバスは消えていき義母のコマにタオルを渡される。
キッチン仕事を手伝いながら聞く話はソフィアの話だ。
「ソフィア様も今年デビュタントがあるのよ,まぁ欠席されるだろうけど」
酷い話よね、とアシタに愚痴りはじめたコマの話が長い事を知っているアシタは、飲み物を持っていくと言ってソフィアの部屋に逃げた。
「馬鹿ね」
部屋にはセバスがいたがアシタが来るとまた入れ違いになる。
笑いながら紅茶を飲むソフィアの机には見慣れない立派な手紙があった。
「気になるならあげるわよ」
立派な金文字で第一皇女ソフィア様と書かれた手紙があり、王家の紋章がある。
ソフィアを見ると晒し者になるなんてまっぴらごめんよと笑いながら言う。
「会いたいとかさ,ねぇの?」
首を横に振るソフィア。
見れば平民が着る様な古した服に緩く後ろで結ばれただけの髪、翻訳作業を昼夜しているからかメガネまでかけているボヤッとした女が皇女だとは誰も思わない。
紋章付きの手紙は月1度ほど来ているが、毎回返事もせず引き出しに入る。手紙には皇女へと書いてあり本物なんだと実感するがソフィアは過去についてはあまり話さないから聞けない。
――傷は
アシタも意図せず見てしまった事がある。
かなり薄くなっていたけど鞭で打たれたみたいな赤い跡。
ある程度は綺麗になったもののまだ残っていると言っていた。
「デビュタントの招待状を送ってくるぐらい来てならドレスや宝石の1つぐらいよこしなさいって話よね」
行く気がないソフィア皇女としての過去は気にならないこともないけれど、良い過去でないことは分かる。
「私が美しいからってジロジロ見ないで」
「自分で言うか?」
「当然よ,私を誰だと思っているの?」
皇女様よ,と笑うソフィアは痩せっぱっちで胸も尻も出てないしボロい服を着て美人かどうかは分からない。
けどアシタは世界一の良い女だと思う。
「見なさい」
ソフィアは取り出した小包はハクアからだ。
成績表とバッジ取り出してアシタにほらねと自慢し始める。
「肌はアシタより白くて私より黒いの。少し焼けている肌って素敵よね。かなり背が伸びたと聞いているけれど、どれくらいかしら」
あなたも綺麗な褐色よというソフィアは楽しそうで、アシタはうんざりする。
――よく想えるな
ソフィアが毎月送る手紙に返事は殆どない。
季節の変わり目にくる数行の少ない手紙。
「早く会いたいわ」
窓の外を見ながら言うソフィアの小さな呟きは聞かなかったフリをする。
――何が良いんだか
坊ちゃんの学費が免除になっている事実が発覚したのは先月だ。
学校側から学費免除に関する手紙が送られてきて事態が発覚した。
『学生はお金がかかるものよ』
ブチ切れたセバスと違い、すっかり貧乏暮らしに慣れたソフィアは全く気にしていなかった。
『私の持参金だから許すかは私が決めるわ』
ソフィアの言葉でハクアに問い詰めることは出来なかった。
だけどアシタはセバスが手紙を学校側にも送っていたのを知っている。
使い道が、貴族の嗜みという名のただの贅沢な遊びだということも、遊びに娼館が含まれていることも知っている。
――帰ってこなきゃ良いのにな
ソフィアを金蔓ぐらいにしか思ってないなら一生帰ってこなけりゃ良い。
アシタはこの生活が一生続いてほしいと思った。