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3話-ソフィア視点-


厳しかった冬の季節は過ぎて春。

肺炎で四十度近い熱を出していた泥棒に自分の名前を聞くといろんな名前を言うのでその中から取って『アシタ』と名付けられた。


熱で苦しむアシタをセバスの妻(コマ)とソフィアが交代で看病し,犯罪印を身体に当てられた移民の少年はセバスの養子となった。


「えっお前皇女なの?ブスッ」


初会話はコマの一撃で終わった。

アシタは口が悪い。思った事をそのまま口に出してしまうタイプだった。

何処のグループにも上下関係がありルールが存在する。アシタは上手くやれずに盗みを働いたんだろうとセバスは言った。


異国の民らしく、肌はハクアより黒い。

歳はハクアの1つ下だった。


7歳の時に母親と隣国にいたらしいが戦争が始まると聞いて逃げ、その際の傷でお母様は9歳にはなくなったらしい。

国の民しか受け入れない孤児院に行く事もなく盗みで生計を立てていた。


「俺は塀に登んの得意でさぁ」


アシタは熱が引いた瞬間、信じられない量の食事を平らげながら色んな話をしてきた。

既にセバスは引き取ったことをかなり後悔していたが意外な事にソフィアは面白がった。


「砂漠の国から来たの?シリ国?ランジョウ国は潰れたって聞いたけどドマクかしら?」

「知らねぇけど海があったと思うぜ」

「海がある国ならシンド国かも知れないわね。言葉とか覚えてないの?」

「さぁな」


金くれたら教えてやってもいいぜと笑うアシタにまたセバスの手が容赦なく頭に飛んでくる。


「いってぇ!」


こうしてアシタは多少の不安があるもののランド家の一員となった。




******




『この花が咲く頃には一度帰省する予定です-ハクア』


春になり、送られてきたのは花のタネ。

加えて成績表と上位10位以内の優秀者に贈られるという銀バッジ。

添えられていた一文にソフィアは溜息をついた。


――どうしよう


義両親の浪費で出来た借金はソフィアが節約したところでどうにもならなくなっている。

一応ハクアにも手紙でそれとなく伝え続けてはいるが触れられた事はない。


見栄っ張りなところがあるソフィアはハクアに悪いことを伝えて居らず、泥棒や泥棒を引き取ってしまった事も伝えていない。


「アシタ!」


アシタが来るまで聞いた事がなかったトマさんの怒鳴り声が響いてソフィアは部屋から窓の下を除く。

トマさんの足はアシタの速すぎる脚には追いつかない。一瞬で見えなくったアシタにソフィアはまた溜息をつく。


――ハクアに言わなきゃ


身体が軽く手癖も悪いアシタは熱が下がって元気になった頃、ソフィアのお気に入りの手鏡やアクセサリーを盗って3日ほど家出した。

怒るセバスを見てソフィアは自分の考えが甘かった事を反省した。


悪い連中と付き合いがあるらしいアシタはお金が無くなれば帰ってきて、ソフィアの話相手をする。

その代わりに盗まれた物の中には人形のドレスもあり、ソフィアも怒りはしたが引き取れと頼んだのは自分なのでセバスに告げ口は出来なかった。


「トマさん大丈夫?」


良い事もあった。

ソフィアは、セバスの妻であり料理人兼家政婦のトマさんと話せる様になった。


今までソフィアは侍女などの使用人達と仲良くなった事がない。

皇女にとって使用人達は透明人間、話すなんてもっての他。

目線一つで動かすものだった。

少なくともそう教えられたソフィアは、ランド家に来てからも家令のセバスとしか話さない。


他の使用人も皇女という身分のソフィアにどう接してよいかわからなかった為、今の今までソフィアはトマさんと話した事は一度もなかった。


だけど今は他の使用人も居らず、徐々に市政の暮らしに慣れてきたソフィアは以前から話す機会を伺っていた。


一応料理人として雇われているトマは東からの移民で明るい性格。

ソフィアは珍しい外国の料理の話を聞きたかったのたが、忙しそうなトマに話しかける勇気はなかった。


アシタが問題児のおかげで、屋敷を心配する女主人という大義名分を得てソフィアはトマに話しかけられるようになったのだ。


「ソフィア様⁈怒鳴り声きかれちゃいました⁈うるさかったですか?本当すみません」

「いいの。アシタにも困ったものね」

「本当困りますよ!私がなんとか坊ちゃんが帰ってくるまでに根性を叩き直しますからね!」

「ありがとう」


トマは話してみると明るく優しい人だった。

夫であり家令のセバスから話を聞いているトマは、ソフィア皇女に話しかけても嫌な顔をされないことがわかると、積極的に話にいくようになった。


「トマ、今は何を作っているの?」

「当ててみてくださいな。ヒントは皇女様のお好きな菓子です」


無愛想無表情なセバスという夫を持つせいか、トマはソフィアのわずかな表情の変化を見逃さない。細かい気配りと、素直な愛情表現はソフィアにとって初めてに近い物だ。


「服ですか?可愛らしい皇女様でしたらどれもお似合いだと思いますけど、元が良いのでこういったシンプルなデザインも似合われますね」


トマはソフィアに対して見返りもないのに、嘘偽りなく接してくれる。

可愛いいつの間にか無愛想無表情のセバスより明るい笑顔で接してくれるトマとよく話す様になった。


「何を植えてるの?」

「トマトです、裏庭の方なら良いかなと思ったんですがダメでした?」

「別にいいわ」


ハクアからもらった苗の元気がないから部屋に来て欲しいと話し、ティータイムの大義名分も得たソフィアはトマについて回る。


その様子を窓から見ていたセバスは複雑な気持ちになりながらも今は,と優しく2人を見守った。


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