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後日談3話-ソフィア視点-


ハクアが西部の地を任された。

それと同時に、城に戻ってくるようにとの命令を伝えにきた臣下の勝手な言い分に呆れた。


「皇女様には城に戻っていただきたくお願いに参りました」


頭を下げるかつての大臣の顔は疲れきっている。


――当然ね


ここ数年、情勢は安定しているが景気が良いとは言えなかった。

黙認されてきた陛下の周囲で甘い蜜を吸う貴族達に対する反感、昨年度から何度か話題に上がっており国民の不信感も募っている。

そして、今回の皇女の用途不明金の暴露。


隣国では政権交代があり、その影響か西部では死者が出る暴動もおきている。

誰にも知られずひっそり生きていたソフィアだが皇城に帰るかはともかく、ここまで話題になれば表舞台に出ざるおえないのは明白だった。


「離れたくないわ」

「っ!ソフィア!」


皇女として生まれたからには国を安定させ国民を幸せにするという義務を果たさなければならない。その気持ちは今も変わらないし、人が呼吸するぐらい当然だと考えている。

だが、ハクアと離れるのは嫌だった。


ハクアが好きという気持ちよりは、城に戻るとこの生活を捨てなければならないからだ。

落ち込む様子のソフィアに、ハクアは甘ったるすぎる愛を示すが危険が伴う西部についてきて欲しいとは言わなかった。


「姉さんが望むなら別邸を作る。社交は出なくていいから…偶にでもいいから会って欲しい」

「お姉様にそんな顔させたかったんじゃないの!ただ話したいって思って…」


毎日人が来る中、ソフィアは城に戻らなくて良い方法を考えた。

だが、何をどう聞いたのか泣きそうな顔をしてやってきた弟と妹にソフィアは弱かった。

こうして、ソフィアはハクアと離れ因縁の城へ滞在する事になった。


「また翻訳ですか?全くソフィア様はお変わりないですねぇ」


焼きたてのクッキーを目の前に差し出されたソフィアは声の主に笑いかける。


「売れっ子は忙しいのよ」


目の前のクッキーを食べるソフィアにトマは折角こんなにお綺麗なのにとため息を吐く。


「私が皇女様なら毎日遊び尽くします!贅沢の限りを尽くしてやりますよ!」


トマの言葉にクスクス笑うソフィアは、食事を持って入って来た侍女が見惚れられていることに気づかない。


――お綺麗だわ


少し吊り上がった目に睨まれると怖いが、妖艶な口元が笑うとふわりと花が咲くような笑みが堪らないと噂の第一皇女。


「あら、ありがとう」


侍女の存在に気づいて、口端を上げる歪な笑みに内心がっかりしながら頭を下げて部屋をでる。

あの笑顔は心を許されたものしかそばで見ることはできない。

次にあの笑顔を受けれるのは誰か。

今密かに、熾烈な競争が行われていることをソフィアは全く知らない。


「全くソフィア様ったら相変わらずなんですから。まぁ良いですけど」


一番その笑顔を受けているトマは、ルイズから依頼を受けソフィアの専属侍女になった。

最初こそ平民出身の自分が城なんてと思っていたが、持ち前の明るい性格と、ソフィアの信頼を勝ち得ている数少ない人物として尊敬の眼差しを受け気分は良い。

コンコンとノックがなり、入って来た皇太子殿下も最初は怖かったがトマには優しい。


「お姉様」


昼を指す時計。

姉が大好きな皇太子は時間のある時にはなるべく、ソフィアの部屋に来る。

規則正しい時間に食べるようになり、何より表情と性格が穏やかになったと周囲が大変喜んでいた。


「そう、問題は解決したのね」

「お姉様の案にみんな驚いていましたよ。あの悔しそうな顔を見せてやりたかったです」


偶々思い付いたのよと言いながら目を擦るソフィアに周囲は笑いを堪える。


「お姉様のお陰で1つ問題が片付いて時間が出来ましたし、来週でも遊びに行きませんか」

「…そうね」


断ろうとした少しの間で、急にしゅんとした弟にソフィアは弱かった。

上機嫌なルイズが出ていった後、トマはソフィアに話しかける。


「遊ぶって事は、皇女様もですか?」

「多分そうでしょう」


溜息を吐くソフィアは時計を見る。

今日は来ないでくれと願ったが時計が3時を過ぎる頃に、客はやって来た。


「ソフィア皇女様!お助け下さい!私ではもう駄目なのです!」


泣き崩れる夫人にソフィアは溜息を押さえて貴方ならできると励ますが,夫人は泣き崩れる。


「やめさせて下さいませ!」

「私に人事権はないわ」


しくしく泣き出す夫人を放り出せは出来ない。トマ特製のクッキーを出しながら、話を聞いていればまたノックがなる。


「いけません皇女様!」


客の名が告げられる前に自ら扉を開いて現れた妖精は、ソフィアに抱きついた。


「お姉様!」

「やり直しよ、カナリア」


怯える夫人に退室を促し、カナリアにはもう一度扉からやり直しをさせる。


「ご機嫌よう、お姉様」


妖精に例えられる程可愛らしい第二皇女カナリアの笑顔は素晴らしい。


「左足はもう少し折り曲げて、そのまま両手をこの位置に……そうよ」


拙い礼をするカナリアは綺麗に出来た!と嬉しそうで、夫人がいた席に勝手に座る。


――頭が痛いわ


父に嫌われている自覚はあったソフィアは、城に呼び戻されてすぐ陛下に呼び出しを受けた。


『姉として可愛い妹に手本を見せてやって欲しいんだ』


今にも殴りかかりそうなルイズを宥めつつ、キラキラと第二妃譲りの瞳を瞬きさせる女の子は確かにかつて見ていたカナリアだった。


「お姉様おかしいわ。割り切れない数字はどこいったの?」


小さい頃からその愛らしさ故に陛下が目に入れても痛くないほど可愛がった第二皇女。

身体も弱かった故に今まで勉強をしてこなかったと聞いてはいたが,ソフィアもここまでとは思わなかった。


「カナリアまたお姉様の元か?夫人はどちらに行かれたんだ」

「用事があると言ってたわ」


昔より体が丈夫になったカナリアだが教育係は中々見つからない。


「凄いな合ってる」

「でしょう⁈」


皇族ならできて当然のマナーや勉学がカナリアには何一つ身についてない。

病気のせいだから仕方ないと言えたら良いのだが今の陛下は1人息子。

直系はソフィア含めて3人だが、継承権を放棄したソフィアは数に含まれない。


となると,唯一女性の直系はカナリア1人。

ルイズの許婚は慣例にならい他国のカナリアより年下の方だ。基本的に皇族直系の女性が城などの財産管理など取りまとめる。

周囲が信用できる人間とは限らない。

見極める力も皇族には必要だ。


――出来ないのは困るわ


現に,今ルイズの負担は大きい。

だがカナリアに教えるのは簡単ではない。

覚えだとかはどうかとしても、後ろに陛下と皇太子がいる。

万が一泣かせたりなんかすれば追放では済まないだろう。そのリスクを冒してまでやりたがる人などいない。

ソフィア達も教育を受けた夫人を何とか説得し呼び戻したが難しそうだった。


「カナリア」


こちらに向けられた優しくも威厳のある声にソフィアは肩を震わせる。


「相変わらず3人とも仲が良いね」


仲間はずれで寂しいよと笑う陛下に、今更媚を売ることはない。


――必要ないわ


自分を守ろうとしているのか前に立つ弟を可愛らしいと思う。

陛下がカナリアを連れて去って、ようやく一息つけた。


「すみませんお姉様」

「いいのよ」


少し青白くなった顔に歪な笑み。

心配ないわと笑うソフィアに皇太子もそれ以上は何も言えなくなる。

戻らせて、風呂に入ったソフィアは耳元のピアスを触る。


『忘れないで下さいね』


何度も,何度も囁かれた言葉と痛み。

噛みつかれた跡はもうとっくにない白い腹を探る。


――あんなのズルいわ


愛される事がどんな事かソフィアには分からなかった。

ずっと願ってようやく諦めがついた頃に叶った想いは簡単に切り裂かれる。


「神様は意地悪ね」


出来る事なら早く帰って来てほしい。

ソフィアはハクアの瞳色がついたピアスをそっと指で撫でた。









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