1話-ソフィア視点-
話の区切りが、——-だったり******だったりします。順次改訂します。
[寝るのは好き。夢なら私は何にでもなれるし息が出来る気がするの]
芝生の上で読んでいた異国の詩集は、複数人の足音に気づいて置いた。
美しい礼をして待つのは、陛下である父が来たからだ。
「パパ!」
「おっとカナリアまた背が伸びたかな?」
「伸びたよ!」
急に飛び付いたら駄目。
お父様の服が汚れてしまうわ。
パパなんて呼び方は許されないのよ。お父様って言わないと駄目。
「今日は外国から使者がきているだろう?美味しいお菓子を貰ったから食べに行こう」
「やった!お兄ちゃんとお姉ちゃんも一緒に食べよう!」
「カナリア駄目だよ。ソフィアとルイズはお勉強があるからね」
「えぇ……」
「さぁ行こうか」
服が汚れるのも気にせず抱きかかえたまま王は愛しい娘を連れて中に戻る。
残された2人は特に話すこともない。
そのままお互いの侍女達に付き添われ部屋に戻って勉強をする。
『優秀な方に国は継がせる』
王は愛しい娘を抱き抱えながら言い放ったのはずっと前のこと。
年々父に似てくる皇太子に、王位をと周りが言っているのをソフィアは知っているし、自分がどれだけ努力しようと勝敗は既についているのも分かっている。
――分かってるの
自分は父に好かれていない。
小さい頃、抱きしめて欲しくてわざとコケたふりをして抱きついてみた。
優しく大丈夫?という父はソフィアを触った後ハンカチを取り出し拭かれた。
その行為が貴族での最大級の拒絶だと分かってからは父に抱きついたりしない。
――お母様は高貴な身分だけど寵愛はされなくて、身分は低いけれど跡継ぎのルイズを産んだカナリアのお母様が居るから私は要らない。
ソフィアは父に容姿は似ていなかったが、優秀な頭脳は持ち合わせていた。
だから余計に、他の子どもより重い足取りで母の居る部屋に向かう。
「ん…もっと……」
重い扉が開くと同時に母の声。
裸の母の最近のお気に入りはソフィアに付けられた逞しい護衛騎士。
まともに仕事なんかしない評判の悪い男は、母の股から顔を上げると気まずそうにこちらを見返す。
「ちょっとどうしたの?」
「いや。皇女様が――」
起き上がった母は、自分を見ると華やかで美しい顔が歪む。
「どっかいきなさいよ!」
投げつけられた鏡は、粉々に割れてソフィアの足がちくりと痛む。
「おいおい」
「大丈夫よ。さっさと消えて」
無表情のまま、流れる血を特に気にせずソフィアは部屋を出る。
――今日は大事な日なのに
母には父と違って自分に対して分かりやすい。物を投げられるのは今に始まった事じゃないけど、今日は大臣達が来るから呼びにきたのだ。
あの様子じゃ1人で相手しないといけなくなる。
――今日は
今日はソフィアが色んな人におめでとうございますと言われる日。
――何がおめでたいの
自分が生まれたことを喜んでいる人が本当にいるんだろうか。
ソフィアは窓の外から、父とお茶している妹をこっそり見る。
喋るのは苦手だから書いた、渡せなかった手紙はぐしゃぐしゃに潰した。
******
「第二妃が亡くなった?」
ソフィアが12歳の時。
第ニ妃が突然、亡くなられた。
1つ下のルイズが11歳、カナリアはまだ8歳になったばかり。
朝には冷たくなっていたらしい。
死因は不明だったが、ここ2年ほどずっと寝込んでいて医者から余命半年と言われていた。
余命の時期はとっくに過ぎていたからみんなが油断していた。
だから皇妃が毒殺した、そんな噂が囁かれるようになったのは仕方なかったのかもしれない。
「やっと死んだのね、アレ」
証拠は一切なかったが未遂なら何度もあった。
王が何を思ったのか誰にもわからないが調査が入っている最中に皇妃は突然死した。
「お父様はまだ来られないのかしら?」
「その、カナリア様が高熱で……」
――私だけね。
ソフィアは実の母親が死んだと聞いてもなんとも思わなかった。
母の愛人に頭を撫でられた時に、ソフィアを死にかけるまで鞭打つような人だ。
幼い頃から少しでも気に入らなければ躊躇うことなく暴力を振るって、気まぐれの優しさを求めたこともあったけど。
「お母様、そちらは楽しいですか?」
立派なお墓に母が娘より余程大事にしていた宝石を沢山入れる。
父の怒りを恐れてか、やってくる人は多いが早々に帰っていく。
――私が死んだら誰か来るのかしら
華やかで派手な容姿の母はパーティーでは人気があった。
でも、自分は容姿も残念だと周りが言っていて何より母が嫌っていた。
それに教育で身体は傷だらけ。
『跡が残ったら最悪ね』
母との会話で思い出すのは、貶されているものばかりだ。
物心ついた時には教師に囲まれて、出来なければ容赦無く鞭打たれた。
母の国では鞭打つと言われ素直に受け入れた。
帝王学の勉強があるから同年代の子と話す場もない。使用人は母の味方か父の味方か、カナリアの味方。
――私も用済み
皇妃が亡くなった裏側では、弟が皇太子になる準備が着々と整えられている。
弟を焚きつける悪役としての役割もそろそろ終わる。
自分はどこかの国にいく人質か、このまま殺されるのか。
「私もすぐそちらに行きます」
とっくに心なんて壊れかけてるんだろう、涙すら出ない。
もう全てに期待するのはやめていたし、周りの言われるがままの人形のように葬儀を済ませたソフィアは陛下に呼ばれるのを待った。
******
1ヶ月が過ぎた時、政務室に呼ばれたソフィアは喪服に身を包んで現れた。
そんなソフィアに陛下は何も言わないし見てすらいない。書類にサインをしながら話をされる。
「許婚、ですか?」
「ランド家の長男だ。ランド家は分かるね?」
「はい」
――没落気味の名門貴族、って情報なら。
この国の建国当初から記録にあるあるランド伯爵家は代々文官として城に仕え、王都近くの地を納めている。
近年、その地が借金により半分近く売却されたと資料にあった。
大臣を務めた前当主と違い、王と身分違いの恋物語に憧れて、暑い砂漠の国から来た踊り子と結婚した馬鹿な家。
しかも陛下と第二妃と違って愛は長く続かなかった、みたいな話もパーティーで聞いた。
「ランド家の子息、とですか?」
「あぁうん」
仕事に集中し始めた父は空返事。
ソフィアは黙って政務室を去り、支度する。
――ランド家の息子
自分で言うのもなんだが勉強には自信がある。
国内の貴族は殆ど頭に入れているが,ランド家は自分の頭の端にあった。
他の者なら首を傾げてたであろう、会ったこともない没落した貴族の息子を覚えていたのは彼の噂を聞いたことがあるから。
――浅黒のはずれ
ランドの家の息子はこの国には珍しい浅黒の肌をしている。浅黒のはずれだと、弟イリスの友人の取り巻きみたいな男が話していた。
成績で負けたとかなんだとか理由は忘れたが、パーティーの端で座って終わるのを待っていた自分は、その話を聞いて自分と同じ者がいたんだと知って耳を傾けていた。
――同じハズレだもの
自分が陰でハズレ姫と呼ばれているのを知っているソフィアは、父が適当に選んだであろう縁談に少しだけ感謝した。
――――――
顔合わせはすぐにやって来た。
「お初お目にかかります。ハクアと申します」
ハクアは家名は言わず名前のみを語った。
自分より背の高い男の子にソフィアもならって名のみの自己紹介をする。
「ソフィアよ」
ハクアは真っ直ぐソフィアを見つめて、出された紅茶に目線を下す。
――どっち?
ソフィアの心はほんの少し騒めいた。
自分が好かれているなんて思っていない。
無関心なのか嫌いなのか。
浅黒い肌の彼は出された紅茶を飲んで「美味しいですね」とソフィアに笑顔を向ける。
――何コレ
微笑まれ、ソフィア心臓が跳ねた音がした。
同時に鈍い痛みが胸とお腹を襲う。
——-笑った
嘲笑ったり,苦笑いだったりそんな顔じゃない普通の笑み。
ただ笑っただけのハクアだが、素直に笑いかけられたことが少ないソフィアの心臓は直撃された。
あまりの鼓動の速さに何か盛られたのかもしれないと考えるが、目の前のハクアは淡々とした言葉を紡いでいる。
――落ち着いて
必死に心臓を抑えて、口の端を上げる。
ハクアが何か喋っているが初めてのことに頭が混乱して何を聞いても右から左へ流れていく。
どうやら陛下と話は済んでいるようで,再来月には我が家に来ていただきますがよろしいですか?と遠慮がちに聞かれる。
それどころではないソフィアは、横にいる陛下の侍従の目線を見てなんとかえぇと答えた。
――出ていくのが正解だもの
此処に残るのは不正解だ。
どこかホッとしたようなハクアを見て、陛下に脅されていたのかもしれないと考えるとハクアが可哀想になる。
――きっと押し付けられたんだわ
腐っても皇女の身分を持つソフィアだ。
弟イリスにあてがわれた友人達の中にも候補はいただろうが、どの家も陛下の機嫌を損ねたくなくて断ったのだと容易に想像がつく。
皇室のパーティーに1度でも来ていれば、自分がいかに疎まれているかわかる。
実際、ソフィアに進んで話しかけてくるような人は殆どいなかった。
母の機嫌が良い時、たまに話の場に呼んでもらえたことはある。
だが、物心ついた時から勉強漬けのソフィアは会話を楽しむ事が難しく、美しくて派手な母のようにうまく立ち回れなかった。
笑えと言われて口の端を上げた笑顔は、母から扇子を投げつけられた。
そんなソフィアを周りは冷たく見下ろし、それからソフィアは人形のようになって周りの話を聞く事に集中してきた。
そんなソフィアと仲良くしたいなんていう同年代はいなかったので、ソフィアは目の前の許婚を見る。
――浅黒い肌って素敵ね。
言ったら彼はどんな顔をするんだろうか。
友達の作り方は授業で習ってないからよくわからない。
どうやって人と仲良くなるんだろうなんて考えていたソフィアは、続くハクアの話をまるで聞いていない。
ハクアはボーッとしているソフィア皇女を心配に思いながらも、今しかないとばかりに言わなければいけない事を全て言い切った。
「――です。お願いして宜しいですか?」
「えぇ分かったわ」
聞いていなかったなんて言えないソフィアは後で侍従に聞けば良いと思って頷いた。
「皇女様どちらに?」
淡々と与えられた仕事のみをする侍従。
自分に取り入るメリットはないと、ソフィア自身もわかっているので話すこともない。
じろりと目線を投げ、ついてくるなと目で言えば、1人にしてくれるので楽だ。
まだ発表はされていないが、弟ルイズの立太子が会議で承認されたらしい。
おかげで授業がなくなった。
もう勉強しなくても良くなったソフィアのブームは面白い大衆小説を読むことだ。
「お姉様」
図書室で本を読んでいたら、声を掛けられた。
――ルイズ
1つ下の弟だ。
授業以外で殆ど交流はない。
喋ったのは第二妃の葬式以来だと思いながらも背後で睨んでる侍従に、声は自然と小さくなり手にしていた本を隠す。
「…外国語の勉強よ」
「そうですか」
手にしていた本は外国語で書かれてあったので言い訳にしたが,よく考えればもう王位を争うライバルでもない。
――そう、もう出ていくんだもの
もうすぐ城を去る事を弟が知っているのか知らないのかはどうでもいい。
ただ、もう勉強していることを隠さなくて良いのだと思い直した。
――最後に少しぐらい会話しようかしら
未来の王と仲良くしておいて損はないだろう。
打算的な考えを持ったは良いが,話しかけ方が分からない。ルイズは少し離れた椅子で本を読む事に集中していたのでやめた。
――良かった
内心ホッとしながら読み終わった本を戻そうとすれば、さっきとは別の優しそうな侍従が預かってくれた。
「おや、テドリの冒険物語ですか」
40代半ばの位の高いバッジを付けた侍従。
彼はソフィアにお薦めの本を何冊か紹介してくれてたが、本を手に取る前に扉が開いた。
「お兄様!」
カナリア皇女様がルイズを探しに来たようだ。
「お姉様もいる!2人で遊んでたの⁈」
逃げようとしたソフィアは抱きついてきた妹にどうしようかと悩むけど、そっと引き離した。
「お姉様もう体調は平気なのですか?もし良かったら遊びませんか?」
体調?と首を傾ける前に、侍女がソフィアの前に立ちはだかった。
「皇女様、ソフィア皇女様はまだお身体がすぐれないのですよ」
だからあんまり,と言葉を濁す侍女にソフィアはさっきの対応が正解だったと安堵する。
――体調が悪い設定ね
カナリア皇女様を守らなくては。
そんな空気が造られていくのを毎回、ソフィアはひしひしと感じる。
「行くわ」
みんなが思う正解を言って外に出る。
侍従を探したがいないので1人で部屋に帰る。
――もう出ていく皇女だもの
真面目に仕えても無駄だとわかっているんだろう。
読みたかったが、次はない。
部屋に戻れば引越しの準備だけは進んでいて、笑ってしまう。
――本当に虐めてやろうかしら
人を痛めつける方法なんて嫌というほど知っている。ソフィアは運が良いのか悪いのか身体だけは丈夫だったから、無事だったが身体が弱いカナリアなら間違いなく死んでしまうだろう。
――まぁその前に私が死ぬわね
父は第二夫人の瞳と自身の髪色を持って生まれたカナリアを溺愛している。
カナリアに傷をつくった瞬間、父は躊躇いなく自分を殺すと断言できるぐらいに溺愛しているのだ。
――陛下に挨拶した方が良いのかしら
昔、幼い頃だが熱を出したソフィアの元に父が来てくれた事がある。
1回だが,その1回が嬉しくて、ソフィアはまた熱を出せないかと試行錯誤した。
まだ幼過ぎて父と母の愛情が欲しかった頃だ。やり過ぎれば嫌われることまで頭が回らなかったソフィアは、仮病を繰り返し父の呼び出しを受けて終わった事。
――父は
父からの愛情に期待はなくとも未練があるのかもしれない。
挨拶はやめとこうとソフィアは、多分読まれないだろう挨拶の手紙を侍従に渡した。
******
出発は何でもない日曜日の朝だった。
――誰も来ないのね
隣国の姫君である皇妃も亡き今、誰が何の力もない嫌われ役を見送りたい人なんていない。
王宮の馬車だけがやけに立派で、ソフィアは最後に部屋を眺めた。
かつての王が身分の低い側妃のために作ったという北の部屋。
陛下が住む本城から少し離されていたけどソフィアは豪華で歴史のある部屋はそれなりに気に入っていた。
「お別れね」
母が好きだった派手なレース編み手袋とやたら煌びやかな喪服に身を包んだソフィアは、最後に母が好きだった薔薇を置いて部屋を出た。
裏門から消える皇女様を見送った人はいなかった。
******
ソフィアは12歳にして初めて城を出た。
かたこと揺られるまま半日と少し。
着いた屋敷には人影があった。
――出迎え?
降りれば許婚のハクアがいた。
わざわざ庭に出て待っていてくれた。
皇女様を迎えるのだから当たり前かもしれないがソフィアは純粋に嬉しかった。
少しぎこちないエスコートを受けてハクア自ら部屋に案内する。
「こじんまりとした部屋ね」
「申し訳ありません」
褒めたつもりなのに、謝られたソフィアは少し考えて言い直す。
「とても落ち着いた歴史ある家ね。嫌いじゃないわ」
完璧だと思ったが微妙な反応に心の中で首を傾げる。
「此処が皇女様のお部屋です」
案内された部屋は、城と比べるとこじんまりしているが日差しが暖かくて良い部屋だと頷く。
「それなりね。悪くないわ」
最大級の褒め言葉を言ったがまた顔を顰めたハクアに、ソフィアは気づかないふりをした。
運ばれたタンスが1つなくなっているのにも目を瞑って、新しい生活に想いを馳せる。
――これからハクアと暮らすのね
ソフィアには新しい生活の方がずっと大事だ。さっきギシギシなっていた床は、タンスをもう1つでも売って直せばいい。
荒れている庭も今のソフィアには新鮮にしか映らない。
「すみません荒れていて」
「怪物の庭だと思えば悪くないわ」
謝るハクアに、我ながらうまい返しができたと満足する。
「申し訳ありません」
何故か謝るハクアは少し気分を害したみたいな顔をしていてソフィアは混乱する。
「そうだわ。ハクアの御両親は?」
話を逸らそうと両親にご挨拶したいと言えば父は仕事で母は居ないと言う。
苦い顔に、ソフィアは不謹慎にも自分だと同じだと思ってクスリと笑った。
――あら失礼よ、ちゃんとしなきゃ。
ハクアと目があったのでソフィアはニッコリとほほんでみる。
練習していた笑顔にハクアは少し驚いたみたいだがすぐに真顔に戻って他の部屋も案内してくれた。
―ハクアside―――――
嫌味を言いながらも、物珍しげに見て回るソフィアにハクアはほっと息を吐く。
「ハクアの部屋はどこ?」
無表情な皇女様は、自分と目が合うと口端だけを無理矢理上げた笑みを見せてくる。
――不気味だな
あまり評判が良くない皇女との結婚。
陛下に睨まれたくはないのに、皇女が持つ持参金目当ての父が勝手に立候補した。
つまり自分は父に売られた。
『君の将来に期待して娘を預けるよ』
初めてお会いした雲の上の地位にいる陛下の笑みは優しげだったが,それ以上にそこ知れぬ闇を感じた。
陛下からかけてもらった言葉をそのまま言葉通り受け取るほど、ハクアも幸せな人生を送ってはいない。
自分が産まれた時から没落の一途を辿る元名門貴族。
母譲りの少しだけ黒い肌は、成長に伴って薄くはなったが周りよりは黒くてハズレの貴族だと何度も笑われた。
悔しくて、惨めで、かつての家の栄光を取り戻そうと死ぬ気で努力した。
現在の学校では剣術も勉学もトップクラスの成績だ。
だから王宮に呼ばれた時は少し期待してしまったのだ。優秀なルイズ王子の遊び相手にも選ばれたのかと。
――ハズレ姫を押し付けられるとはな
ソフィア皇女との談話前。
かなり早めに来たハクアは、庭でカナリア皇女様を見かけていた。
陛下が溺愛すると噂なだけあり、カナリア皇女様は遠くから見ても可愛らしい庇護欲をそそられる容姿だった。
惚れたわけではないが少し見惚れた。
だから、姉であるソフィアも可愛い子なのかもしれないと少し期待した。
実際のソフィア皇女様は、吊り目がちで少しキツイ印象があるが、普通に美人だった。
だが、その作られたような笑みは苦手だった。
がっかりしたわけではないが,何を考えているかわからない皇女様と暮らすのは不安だ。
――でもチャンスだ
陛下は自分の成績を見て、今の学校ではなく紹介状が必要な名門校への入学試験を受けさせてくれた。
合格通知が来れば寮暮らしになる。
――手応えはあった
自分にとって、お金では買えない紹介状はハズレ姫を押し付けて来た対価としては充分過ぎると思う。
手に入れたのは名門校への推薦状と召使いを雇って屋敷を修繕できる持参金。
――でも何故うちに
そこだけは正直言って殿下がこの家に来る意味が分からなかった。
不満などではなく、皇女様なら国にとっていくらでも使い道があるのだ。
酷い話だが人質でも他国に嫁がせるでも皇女という身分はそれだけ価値がある。
「ハクア?」
「すみません聞いていませんでした。もう一度仰っていただけますか?」
ソフィア皇女も何を考えてるのかよくわからない。
「いえ、ただ実感が湧いてこないわと言っただけよ」
夫婦になるなんてと、言うソフィアに頷けば少しだけ顔を緩めた。
――笑ったのか?
皇女様は窓の外を見ながら、宜しくねと言い、ハクアも「はい」と返事をした。
試験は合格だった。