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後日談2話-皇太子視点-

ソフィア皇女が城に戻る。

皇太子と陛下の不仲説が巷でも話されるようになった頃、突如降って湧いた新しいニュースに国民は興味津々となった。

そして、そのニュースは地獄と化していた城に新しい風を呼び起こした。

手始めに皇太子であるルイズが、自分の部屋の移動を命じたのだ。


「お姉様に私の部屋を渡す」


継承権を放棄した姉に、皇太子の部屋を使わせる事はどうなのかと反論した人々は物理的に黙らせた。

せめてもの詫びだと、少なくとも皇太子は姉を大事にしていると認知される事に意味がある。

そんな話に物凄く嫌そうな顔をした姉は、落ち込んだ顔をしただけであっさり使うと言わせた。


「お姉様」


父が姉を呼び戻した理由は分からない。


――変わったからか


父は全く変わらないが、姉は変わった。

昔好んでた豪華な服やアクセサリーをみにつけなくなり、使用人への過ぎるくらいに傲慢な態度もなくなった。



――それから


以前と違って自分を避けなくなった。

会話の中では自然と溢れるような笑みを自分に向けてくれる。


「全く、困った子ね」


甘えると頭を撫でられ、嬉しくなる。

本当はこんな風に姉と会話したかった。


皇太子殿下の歳にしては多過ぎる責務。

若いからと舐められる日々。

可愛い妹の部屋は陛下の隣で、自分からは遠く中々時間も取れない。


毎日処理に追われる仕事を愚痴る相手もいなかったルイズは、政務室から近い自分の部屋をソフィアに渡して心底良かったと思っているのは内緒だ。


「お姉様?寝たの?」


姉と話す事は尽きない。

お酒が弱いのに毎回ルイズに付き添い飲んで眠る姉は、とても不器用で優しい人。

ペンを毎日握っているからか固い手をマッサージしているのも姉には内緒だ。


――冷たい


冷たい手は怖い。

ベッドに横たわったままの母を思い出す。

いまだに美談として語られる父と母の恋だが、世の中は物語のように上手くはいっていなかったことをルイズは知っている。


最初こそ愛があったのかもしれない。

だけど母は王の隣に立つほどの教養も野心ない普通の綺麗な人だった。

父は隠していたが、ルイズが物心ついた時には母は体調より精神を病んでいた。

毎日泣いて何度も父に故郷に帰らせてと頼み込んでは、侍女達に怒られていた。

母の優しい性格を利用されて高位貴族の侍女達から虐められていたのも知っている。


『ルイズ様はあぁはなりませんように』


母は、妹と比べてルイズには一線引いていたように思う。


『この子は皇太子殿下ですよ?母親だろうと貴方の身分なんだから敬意を払って頂戴』

『皇太子殿下の教育は私共にお任せ下さい』

『殿下は陛下に似られて良かったですね』


ルイズを褒める際に遠回しに傷つけられる母は自分とあまり居たくなかったのだろう。

カナリアを産んでからは、ルイズが忙しかったのもあるだろうが、体調が悪化しても呼ばれることはなくなっていって母の最後には立ち会えなかった。


「随分と質素ね、やはり生まれかしら」

「本当に良い気味だこと」


葬儀の場も他と大して変わらない。

母を侮辱する声。

裏でいじめ続けていた祖母も笑っていたくせに父が来た瞬間に、泣き出すんだから笑えた。


「あぁ最高の気分だわ!」


酒の匂いをさせて周囲とクスクス笑う皇后の方がまだ清々しくて良い。


「申し訳ありません」


父に謝るお姉様は、父の護衛に突き飛ばされ周囲がヒソヒソと話す。


「ごめんなさいね」


口端を上げる姉に苦しくなる。


「御冥福を」


自分に渡された花は忘れない。


――母の好きだった


自分が一度だけ授業の際に先生と話した記憶がある雑草の花。

雑草だけど、北の地方にしか咲かない花は城にはない。姉は全くと言っていいほど面識がない母の為に用意してくれた。


「泣いていいわ」


姉の言葉に溢れた涙は止まらない。

去っていく姉の代わりにやって来たいつもの底意地の悪い奴等が自分を取り囲む。


「殿下どうされました?先程ソフィア皇女様がおりましたが何かありましたか?」


心配そうに聞く奴等は今後の事しか心配してないのは態度で分かる。


「人前で泣くなど、みっともない」


大叔父に取られた花束は、なんだこれはと笑われてカッとなった。


「返せ!」


騒ぎに離れていた姉がやってきて、落とされた花に顔を顰める。

大叔父が持っていた花束を貰うと叩き落として、派手で品位がないと鼻で笑い大叔父と同じように踏みつけた。


「第二妃なんてこんな花で充分でしょう」


泣く自分を見せないように,前に立つ姉の強さに泣く事しかできない自分が恥ずかしかった。


――幸せだったんだろうか


母の両親には会ったことがない。

今頃訃報の知らせが届いているだろう。

こんなに沢山の花が添えられていても、母が会いたいと言っていた友人も祖父母もいない。


「何事だ?」


やって来た父は、周囲の話を聞いてバチンという派手な音と共に姉が目の前から消える。


「泣いてるのか?みっともない」


ルイズを見下げる男を睨みつける。

頬を容赦なく叩かれ、口端を上げる姉は血が出ているのに泣いてもない。

泣いてる自分は父を殴ろうとして止められる。

白くて小さな花はぐちゃぐちゃになった。


「覚えてますかお姉様」


栞に直した花は自分の宝物。


「次は僕が守りますからね」


気持ち良さそうに眠る姉はいつまでも見ていられた。


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