【NY市警ピーター・クリフォード警視②(NY city police Peter Clifford)】
“最高にダサい男”私立探偵マックス・ベル
は、
毎週、月水金のAM6時00分よりお届けいたします(๑╹◡<๑):.。+゜
「どう? 似合うかしら」
ミンクのコートに背を向けていた俺の後ろからレベッカの声がした。
振り向くとレベッカがハンガーからコートを外してピーターに見せていた。
「やあ、凄く似合うよ。着て見せてくれないか」
「いいわよ」
“よせっ‼”
ピーターが居る眼の前だから声に出して言えなかったが、俺は慌てて振り返り口パクで伝えた。
ブカブカのコートを羽織ったレベッカの、あの恰好を見れば俺でなくとも笑ってしまう。
俺が不用意に笑ったときレベッカはイヤな気もちになったのだと思う。それが大好きな叔父に笑われると言う事は、俺に笑われるよりも何十倍もイヤな気もちになるに違いないから止めた。
しかし頭のいいレベッカは敏腕刑事として鳴らした叔父の手前、視線の動きによって俺と共謀していることがバレることを案じてか、俺の方を見ないまま再度サイズの合わないコートを羽織った。
ピーターは俺のようにバカみたいに笑わなかったが、それでも可笑しさを堪えるように引きつった笑顔を姪のレベッカに向け、そして俺が口に出して言わなかったNGワードを愉快そうに言ってしまった。
「レベッカ、まるでエスキモーみたいじゃないか!」
俺はレベッカが泣き出してしまうかと思って、頭を抱えて机に蹲る。
だが彼女は、俺の予想した状態とは全く異なる反応を示した。
「そうなのよ。それ、さっきもマックスに言われて笑われたの」と、いかにも可笑しそうに言ってのけた。
「オマエ、そんなことを言ったのか⁉」
真顔になったピーターが、俺を睨む。
俺は慌てて手を振り、違う違うとジェスチャーで答える。
「いいの。だってコレ私の物ではないんですもの」
ピーターが、どういう事だ?と刑事の本性剥き出しの顔で彼女に聞くと、レベッカは暖かい日本で過ごしていたままの服装でJFK空港に降りて凍えていた私に知らない女性が貸してくれたと言うとピーターがドレドレとコートを見るために席を立った。
「こりゃあ本物のミンク、しかも高級品じゃないか。コンナ物を誰が貸したんだ?」
“ヤバイ!” 俺はコートを貸してもらった経緯と、貸してくれた女の容姿は伝えたが、名前は伝えていなかった。
肝を冷やしている俺とは違い、レベッカはピーターの問いに平然と答える。
「リズって言う人よ。背の高い超絶美人」
「で、そのリズと言う人はココに取りに来るのか?」
ピーターの刑事としての話しかたの特徴は、相手の嘘にボロが出るまで続く。
「まさか、貸した本人が? 私が持って行って返すのよ」
「どこに?」
「えっと……住所は同じことをさっきマックスに話したときに、俺が返しに行くって女性から預かった名刺を取り上げられたわ」
ピーターが俺の方を振り向いたので、財布のポケットに挟んでいた名刺を見せた。
彼は名刺をろくに見ることもなく、こんな高級品を見ず知らずの人に貸すなんて物好きな女も居たもんだなと呆れていた。
「だって商売女だもの。人を見る目が違うわよ、オジサマ」
レベッカにしては珍しく意味深な目つきをしてピーターを睨むと、彼はバツが悪そうに頭を掻きながら言った。
「そう言えばレベッカ、オマエ日本に行って髪を切ったのか?」
「そーなの。日本のヘアーサロンで美容師さんに相談したら、思い切って髪を短くして見ればってアドバイスしてもらったから……でも、駄目だったみたい。あら、この会話、さっきマックスと交わした会話と一緒ですわ!」
レベッカを泣かしそうになった後に俺が気付いたのと似たようなタイミングでピーターが髪の事を言うと、レベッカもまた俺に言った言葉通りにピーターに返した。
ただ違うのはレベッカが、さっきと同じ会話だと付け加えたこと、そしてピーターとレベッカの冷たい視線が同時に俺の方を向いたこと。
“おっ、俺、何か悪い事でもした??”