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【最高にダサい男((Max Bell, the most uncool man)】

 ピーターの事だからマフィアたちを一網打尽にする罠を仕掛けるために到着が遅れたのだろう。

 おそらく奴らはロイドハーバーの警察署を通り過ぎたあと砂州の両側から挟み撃ちに会い、砂州のど真ん中で身動きが出来ない状態に……ところでダイアナは?

 ダイアナが居ないことに気付いてリズの顔を見ると、リズもその事に気がついたらしく一緒に居た2人の仲間の方を見た。

 FBIの凸凹コンビは、お互いの顔を見合わせていた。


 そのときボートのエンジン音が唸りを上げた。

 ダイアナが逃げる!

 俺は慌てて砂浜の向う側を目指して走る。

「マックス‼」

 ピーターの叫び声に振り向くと、彼は俺の方に拳銃を投げた。

 空中で銀色に輝く拳銃は、刑事時代に俺が愛用していたM1911。

 通称『ガバメント』と呼ばれ、強力な45口径ACP弾を撃ちだすことができる普通サイズのオートマチックでは最強の拳銃だ。

 そしてコノ銃は俺が刑事を辞めるきっかけとなり、辞める時にピーターに預けた。

 その相棒が今この手に戻って来た!


 海岸線に出ると、ボートは丁度俺の傍を加速して通り過ぎようとしていた。

 舵を握るダイアナが揶揄うように俺に声をかけた「アディオス(さようなら)おバカさん」と。


 逃げ切れると思っていやがる。

 たしかに普通の9mm拳銃だとこの距離では仮に船体に当てたとしてもボートを止めることは出来っこない。

 だがコノ銃は違う。

 俺はボートの喫水線を狙って連射した。

 ドンドンドン‼

 重い発射音と共に撃ちだされる弾が、横並びにボートの横っ腹に次々と大穴を開けて行き、瞬く間にボートのエンジンは止まり沈没して行く。



 レベッカはマックスの後を追い、リズも遅れて追った。

「キャー! 助けて‼」と、銃声の後にダイアナの悲鳴が聞こえた。

 後ろからついて来ているリズさんが「まさか、撃ったの⁉」と驚いていたが、ボートを操縦していて無防備なダイアナをマックスが撃つはずはない。

 仮に彼女が拳銃を向けて撃ってきたとしても、反撃はしないだろう。

 それがマックス・ベル、最高にカッコイイ人。


 海岸に着くと、ボートと言うには大きすぎるクルーザーが傾いて沈みかけていた。

「彼、大砲でも撃ったの?」と、リズさんが驚いていた。

 ついさっきアディオスと笑っていたダイアナが、沈みゆくクルーザーの傾いたマストによじ登り悲鳴を上げて助けを呼んでいる。

「なっちゃいねえな、海上警察が来るまでしばらく冬の海で頭を冷やすといい」

 いつの間にか海岸線に来た刑事時代マックスの相棒だったボブさんが気の毒そうに言うと、リズさんも冬の海だからさぞかし頭も冷えるでしょうネと相槌を打つ。

 海岸を見渡した私は、マックスが居ないことに気付き、キョロキョロと辺りを探すが見当たらない。

 あるのは砂浜に置かれた彼の靴だけ。


「アイツ何してんだ⁉」

 ボブさんの言葉で振り向くと、彼の指さす方向には冷たい冬の海を泳いでいるマックスが居た。

「助けるつもりよ!」と、リズさんが言い、ボブさんが「あのバカ、どんだけ美人に甘いんだ」と言った。

 甘いと言えば、甘いのかも知れない。

 でもマックスが甘いのは美人だからではない。

 彼は助けを求める人に対して、それが正義であれば誰にだって思いやりのある行動をとることができる。

 たとえそれがさっきまで自分を殺そうとしていた相手であったとしても。

 私は急いで毛布とタオルを調達するため、伯父であるピーター・クリフォード警視のもとに向かった。


 毛布とバスタオルを持ったレベッカとピーターが海岸に戻って来たころ、丁度ダイアナを抱えたマックスが岸に上がってくるところだった。

 2人とも寒さで唇は紫色に変わっていた。

 レベッカは急いでマックスに持ってきたタオルと毛布を渡すと、受け取った彼は直ぐに毛布でダイアナを包み彼女にタオルを渡した。

 遅れて来たピーターが、自分が持ってきた毛布とタオルをレベッカに渡し、再度彼女がそれを渡すとマックスはレベッカに礼を言って自分のためにそれを使った。


 マックスから渡されたタオルで、びしょ濡れの体を拭いて毛布を被ったダイアナがマックスにありがとうと礼を言った。

「礼ならレベッカに言ってくれ」とマックスが言うと、彼女はその言葉に従い素直に私に礼を言ってくれた。

 叔父のピーターがダイアナさんに近付くと、彼女は手錠をかけられると思い毛布の間から両手を出したが、叔父はその手に手錠は掛けずに新しいタオルを渡した。

 それを見ていたリズさんが、どうして手錠をかけないのかと聞くと伯父は、もうこの人には手錠をかける必要はないからだと答えてくれて私は嬉しかった。

 ダイアナさんも伯父の配慮が嬉しかったのか、持っていたタオルで顔を拭っていた。


 事態が落ち着き、連行され車に乗せらるときダイアナさんがマックスにお金の話をした。

 いつ出所できるか分からないけれど、出ることができたら今度は真面目に働いて調査にかかった費用を全額お払いすると。

 マックスはその申し出を断らずに「じゃあそれまで倒産しないように頑張らないといけねえな」と言って笑った。

 車に乗せられドアが閉まる前に「大丈夫よ、アナタなら」とダイアナさんは言うと直ぐにドアが閉められ車は出発した。


 しばらくそのままダイアナさんを乗せた車を見送っていたマックスが、急にソワソワとズボンのポケットを探し始めた。

 どうしたのかと聞くと、財布がないと言った。

 リズさんが「アンタ財布をポケットに入れたまま泳いだの?」と聞くと、マックスはそうだと答えた。

「そりゃあ財布は海の中だわ」と言うと彼は慌てて海岸に向かって走り出した。


「冬の海に入るのもそうだけど、海に入る前に靴を脱いだのなら普通は財布も置いて行くでしょう」と呆れていた。

 私はそのリズさんに、前々から不思議に思っていた事を聞いた。

 それは、どうしてマックスにアノ酒場の会員証を渡したのかと言う事。

 彼女は走って行くマックスの後ろ姿を見つめたまま言った。

「保険よ」と。

「保険?」

「そう、保険。たった一人でマフィアの店に入り潜入捜査をしていると、いつかは素性がバレて奴らに酷い拷問を受けて殺されてしまうんじゃないかと心が折れそうになることもあるの。丁度そんな気持ちの時にマックスを見つけた。凍えそうな寒さの中、ジッと張り込みを続ける真剣な眼差しを見ていて思ったの。この人ならどんなことがあろうとも、必ず私を守ってくれるんじゃないかと。でもフラれちゃったね」


 リズさんの “振られた” と言うのは、ここで彼女たちがダイアナさんを捕まえて連行しようとしていたときにリズさんの言葉よりダイアナさんの言葉の方を信じた事だと思い、私は彼が依頼人の身の安全を第一に考えたことと、リズさんが彼に潜入捜査の事を打ち明けなかったことで勘違いが起きてしまった事を彼に代わって弁解した。

 彼女は少し驚いた顔をして私を見つめ、女心も分からないなんてと言ったあと「最高にダサい男、私立探偵マックス・ベル」と呟いた。



 事件が終わっても彼の仕事は終わらない。

 電話を切ったマックスは慌てて出掛ける準備を始めた。

「また浮気調査ですか?」と私が聞くと、「いや今度は、逃げ出した犬の捜索以来だ! 急がなきゃ、やっこさんカナダにまで行ってしまうか途中で事故に遭ってしまうかも分かりゃしねえ!」

 そう言って本当に飛び出すように事務所から出て行ってしまった。


 事務所に残った私は、テーブルに置かれたままの空の珈琲カップと、朝食のお皿を片付ける。

 急いでいるのにチャンと残さずに全部食べてくれたことが嬉しい。


 そして顔を上げたとき、新しく壁に追加された2枚の感謝状を見つめた。

 1枚はNY市警から、もう1枚はFBIから。

 この2枚は共に、今回のマフィアの事件によるマックスの活躍を讃えて送られたもの。

 探偵事務所の経営は苦しいものの、コレは私の誇り。

 お金よりも正義を貫く。

 そして誰よりも優しい心を持つ。


 私にとって、探偵マックス・ベルは、最高にカッコイイ人なのだ。



                         The END


マックス・ベルこれにて終了です。

毎週火曜と金曜の週二回の更新で始めましたが、7月後半より私の体調不良と他の執筆との兼ね合いもあり、不定期更新となりました事を深くお詫び申し上げますm(_ _"m)

しかしながら、ここにこうして最終回の後書きにお詫びが書けるというのも、読んで下さる方々が居てからこそ辿り着けたのだと思います。

本当にお忙しいなか、読みにいらして下さった皆様に感謝いたします。

そしてまた機会が御座いましたら、私の作品を読んでいただき「前よりも良くなっていない?」と思っていただけるように頑張りますので、その時はまた叱咤激励をいただければ幸いと思います。

最終回までお付き合いいただき有難うございました。

                         著者 湖灯 

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