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【騙した男と騙された女(The man who deceived and the woman who was deceived)】

「コレで納得したかしら? いい冥途の土産ができたでしょう?」

 ダイアナが、そう言ったとき足音を隠して彼女の後ろから接近していたレベッカが、その後ろにピタッとついた。

「冥途の土産なんて、何の事かしら? 観念するのは貴女の方よ」

 レベッカはダイアナの背中に持っていた物を突きつけて言った。

「仲間⁉ マックス、アンタ仲間が近付いて来る気配を隠すためにワザと……」

「悪いな、しかし、お互い様だ。 観念して銃を捨てな。君の供述きょうじゅつが本当なら終身刑にはならないだろう。だがここで悪あがきをして俺たちのうち誰かを撃てば……分かるだろう?」

「このクソ野郎‼」

 ダイアナは仕方なしに、持っていた銃を捨てた。

 レベッカが地面に落ちた銃を俺の方に蹴り、ダイアナは悔しそうにダイアナを睨んで言った。

「アンタ、何者なの⁉」と。

 レベッカは素直に、マックス探偵事務所の事務員だと答えたとき、ダイアナはレベッカの手に何が握られていたか初めて知り「このクソ女!」と彼女を罵った。

 レベッカが手に持っていたのは、ただの木の枝だった。

「小娘のくせに、この私を騙しやがって!」

 持っていたのが木の枝と知るや否や、ダイアナがレベッカに飛び掛かる。

 ダイアナの危機に俺は慌てて飛び出したが、一瞬遅くダイアナの体は宙を舞い砂浜に倒された。


「レベッカ……?」

「ス、スミマセン。でもマックスさんを騙したこの人を許せなくて」

「い、いや、そうじゃなくて。いまのワザ、なに??」

「合気道です。こう見えて私、少しくらいはアクションも出来るんですよ」

「アクション⁉」

 レベッカの技は格闘術と言うよりも、彼女が言う通り「アクション」と言った方が似合うほど鮮やかなものだった。

 俺は銃を取って倒れたダイアナを見張り、リズたちも手放していた銃の方に向かおうとしていたその時だった。

「おっと、まだ勝っちゃいねえぜ」と、南の海岸の方から急に人影が現れた。

 人影は10人ほどいた。

 冬の低い太陽を背にして現れた奴らの顔は、日の影になって分かりにくかったが、そのシルエットと声で一人だけ名前を知っていた。

 “グレック・メロン!”


 グレッグ・メロンは太陽を背にカーボーイハットをかぶり、口には葉巻を咥え、まるで夕日のガンマン気取り。

 だが夕日のガンマンは一匹狼だけど、彼の両脇には6人ずつの手下が居た。

「銃を拾うんじゃねぇ! そしてオマエは銃を捨てろ」

 ヤツが得意気に言った。


「諦めろ。もう直ぐ警察が来る。もう逃げられはしない!」

「陸じゃあ、そうなるだろがな」

「海だって似たようなものだぞ!」

 俺の言葉をあざ笑うようにヤツは言った。

「空なら、どうだ」と。


「ヘリか? しかしスピードも遅く、航続距離もないヘリだって逃げられるものか」

「だろうな」

「飛行機か? しかし、ここには滑走路は……まさか」

「そう。その、まさかだ」

「俺たちは、コレから海を通って空港に向かう。それでアメリカとは、おさらばさ」


「そう言うこと。じゃあね!最高にダサい探偵さん」

 そう言って仲間のもとに向かおうとするダイアナ。

「君が、このシナリオを?」

「当たり前でしょう。アイツみたいなただの種馬に、こんな複雑な計画が立てられるとでも思って?」

 彼女の顔には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。

 しかし、その笑みもグレッグ・メロンの次の言葉で消えた。


「来るんじゃねえダイアナ。オメーの役割ももうこれまでだ。分け前は多いほうが良いし、俺だっていつまでもオメーの言いなりになると思うな!」

「裏切るつもり⁉」

「ああ、日本のコトワザにあるだろう? 畳と女は新しいほうが良いって。金を持った俺にはアンタのようなアラサーよりも、もっと若くてピチピチした女の方が似合う。そうだろう?」

「クソ野郎‼」

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