【騙した女と騙された男④(The woman who deceived and the man who was deceived.)】
「グレッグ・メロンは、いったいどうやってアンドリューとマリアを何の痕跡も残さずに殺すことができたんだ⁉」
「簡単よ、アイツの友達があのホテルに勤めていたことがあったから、あのフロアにある監視カメラが壊れていることを知っていた」
「しかしそれが分かっていても2人が偶然そのホテルを使うことはないだろう?……グレッグ・メロンか?」
「さすが探偵さんね。アイツ浮気をしていたの……マリアとね」
なるほど、それなら辻褄が合う。
グレッグ・メロンはマリアと共謀して、アンドリューをあのホテルに誘い出した。
そして何らかの手段を用いて仲間に合図して部屋に引き込んで、アンドリューを襲わせた。
しかし、そうであればマリアは何故殺された?
ダイアナにその事を聞くと、彼女は急に高笑いをして言った。
「マリアを生かしておけば、直ぐに足が付くでしょう? だってアナタには夫の浮気調査を依頼していたのだから」と。
たしかに、そのとおりになるだろう。
俺はダイアナの依頼で浮気調査をしていて、既にマリアの存在は把握していたし当日はホテルの前で2人が出てくるまで見張っていた。
あの事件でアンドリューのみが殺されて、マリアが逃げた場合俺は警察にその事を知らせるから彼女の交友関係を調べれば直ぐにグレッグ・メロンにもその仲間にも辿り着く……。
「知っていたんだな!」
「なにを?」
ダイアナは惚けた。
「全て知っていて、アンタは俺を雇った」
「さあ……」
「グレッグ・メロンが躊躇わずに確実にマリアを殺せるように」
「さすが探偵さん、面白い推理よ。でもそれを証明できるのは彼しか居ないわ」
余裕の笑みを浮かべるダイアナの表情に俺は動揺して聞いた「殺したのか」と。
すると彼女は答えもせずに、さも可笑しいと言わんばかりに笑ったあと、質疑応答の時間はこれまでよと言い、ギラギラさせた目で俺たちを見た。
“撃つつもりだ!”
余程手慣れた者やラリッているヤツじゃない限り、トリガーを引けば簡単に人を殺せる銃と言えども精神的に相当なプレシャーは掛かる。
プレシャーは急激に血圧を上げるから、手の震えや汗、それに目にその傾向が現れる。
“ヤバイぞ‼”
そう思った瞬間、ダイアナの後ろから音もなく人が近付いてきた。
“レベッカ!”
車には予備の拳銃など置いてないはずなのに、その手には……。
何故ここに⁉
彼女にはピーターたちが到着するまで、車に残っているように伝えたはずだし、彼女は俺の指示を確実に守る子だったはず。
「ちょっ、チョッと待った‼ きっ、君は最初から、そのつもりで俺を雇ったってわけか⁉」
「さあ、どうかしら?」
「お願いだ。最後だから本当のことを教えてくれ‼」
「……いいわ。教えてあげる。 そのとおりよ。だけど私は誰も殺していない」
「しかし、ここで俺を撃てば、殺人罪で追われることになるんだぞ!」
「それを証明する人は居ないわ」
「つまりそれはリズたちも撃つってことか?」
「当たり前でしょう。仲間割れよ」
「バカなことは言わないで! どうして私たちFBIが一般人を!」
今まで黙っていたリズが反論する。
「さあ、現場で何があったのかなんて誰にも分かりはしないわ。 いま私が持っているのはリズ、アナタの銃よ。私の諮問を拭きとって、探偵さんを撃った後、今度は探偵さんの銃で貴方たちを撃つ。指紋なんて死んだ後で幾らでも付けることは出来るわ」
「待て‼ だったら仲間を呼んで、その仲間に撃たせれば君は殺人罪に関しては無実だし、仲間に強要はしなくても彼らは確実に俺たちを殺すから君は殺人教唆にもならない‼」
ダイアナはフッと鼻で笑って言った。
「アンタ、バカじゃないの」と。
「バカ?」
「だってそうでしょう。リズたちFBIは私を拘束してココから逃げ出すところだったのよ。当然ここに居た留守番役のチンピラどもは彼女たちが倒したのに決まっているでしょう」
「留守番役? と、言うことは他には誰も居ないのか?」
「今はね」
「今は?」
「そうよ。彼女に掴まる間際に、私、もう連絡しちゃったの。だからもう直ぐ仲間はここに来る」
「FBIも、もう直ぐココに来るわ!観念しなさい‼」
リズもダイアナを説得するが、ダイアナはまた鼻で笑ってあしらって言った。
「FBIは来ないわ」と。
「来ない?」
「そう。FBIはボスが流した偽のエサに食いついて、今ごろは別の場所に向かっているわ」




