【事務員 レベッカ・キャンベル①(Clerk Rebecca Campbell)】
車に乗り込みエンジンを掛ける前に、依頼人である死んだアンドリューのカミさん「ダイアナ」に連絡をすると、丁度さっき警察から家に連絡があったところでコレから遺体の身元確認のために市警に向かうと言って電話を切った。
事件を聞いて、亭主が亡くなったことを知って驚いて取り乱していた様子が電話越しにでもハッキリと確認することができた。
夫の浮気を疑い、離婚も考えていたはずだったのに、いざ死んでしまうとあのように電話越しでも分かるほど取り乱してしまう。
人と人との繋がりは、30を過ぎて四捨五入をすればもう40になる歳になっても他人と言う家族を持ったことのない俺には分からないのだろう。
車で10分も走るとシュガー・ヒルにある俺の探偵事務所に着いた。
事務所と言っても、只のアパートで外には看板も掲げていない。
ここが俺の探偵事務所だと分かるのは、階段の手前にある郵便受けに書いてある小さな名前と、ドアに張り付けてある札くらいなもの。
道路に車を止めアパートの郵便受けを開けると、滞納している税金や公共料金の督促状が入っていたはずだったのが綺麗に無くなっていた。
誰かが盗んだのか?
まあいい。
盗まれていたのなら、無かったから払えなかったと言い訳すれば済むだけのこと。
そのまま、階段を上がり部屋に向かう。
ドアの鍵を開けようとしたとき、鍵が開いていることに気付いた。
“いったい誰が鍵を……”
耳を澄まして様子を窺うと、人の気配を感じる。
腰に挿していたシグザウエル22LRを手に取り、用心深くユックリとドアを開けた。
「キャーッ‼」
ドアを開けた途端、奥の方から女の悲鳴が聞こえた。
“何故、女が居る⁉”
そんなことは、どうでもいい。
今は悲鳴を上げた女を救うために、俺は全力で戦わなければならない。
俺は部屋に飛び込む。
狭い部屋だが玄関のある方から順に、シューズラック、クローゼットの裏側にあたる壁、バスルームの裏側に当たる壁が並ぶ狭い通路上になっているから直ぐに状況は掴めない。
その先には事務所兼リビングとキッチンがあり、部屋をUターンするように狭い寝室がある。
声の出所は、おそらく寝室の方から!
俺は通路の端で一旦止まってから、銃を構えて思い切って飛び出した。
ところがココから見えるリビングとキッチンには誰も居なくて、寝室の方からバタバタと何か争うような音が聞こえた。
よりによって俺のベッドでレイプか?
俺が入って来た気配に気付かないって事は、野郎は悲鳴を上げた女を何とかしようと夢中になっているに違いない。
だが油断してはならない。
こういった状況と言うのは長年刑事をしていた経験上、最も危険な場合が多い。
何故ならレイプしようとしている奴は人間としての理性を失い、動物の本能が剥き出しになって気が立っているから。
気が立った動物は、たとえ相手がライオンであろうとも襲い掛かって来るから油断は禁物。
「手をあげろ‼そこまでだ!」
俺は寝室に銃を向け、大声で叫んだ。