【ロマンスは止められない②(Can't stop romance)】
仕方なしにレベッカを連れてロイドネックに向けて出発する。
可愛いレベッカを危険な場所に連れて行くのは気が進まない。
だがレベッカの言う通り、彼女ももはや安全とは言えない。
そう思うと、彼女を巻き込むような軽率な行動をとったことに罪悪感を覚えて気持ちが重い。
しかし探偵とは言え、一般人の俺たちがマフィアのアジトがある場所に行くと知った以上、ピーターだっていつまでもFBIを気にして動かないはずはない。
おそらくピーターは今頃慌ててNY市警に戻って、パトカーの大部隊を引き連れて俺の後を追ってくることは間違いないだろう。
「す、すみません」
ムスタングに乗って2人きりになると、いつもの彼女らしく穏やかでおとなしく助手席に収まっていたレベッカが俺に謝った。
「いいさ。それに悪いのは奴らにマークされていると分かっているハユンをアパートに連れて帰った俺のほうなんだから」
たしかに、そう。
マークされているかも知れないと分かっているのだから、そのままどこかのホテルに連れ込んでしまえば良かったのだ。
そうすればレベッカに危険が及ぶことはなかった。
しかし身の潔白を証明したいばかりに、俺はハユンをアパートに連れて帰り、わざわざ狭いクローゼットで寝た……“身の潔白⁉”
たしかにホテルでハユンと2人きりと言う状況は、男女関係を疑われても仕方がないのかもしれない。
だが、俺は探偵で、コレは仕事だ。
いったい誰がそのようなことを疑う?
それに、誰に対して身の潔白を証明しなければいけないんだ??
「あっ、そっ、そこ、左です」
要らぬ考え事をしていて、つい曲がる道を通り過ぎる所だった。
冷静と言う言葉が当てはまるかと言えば、そうではない気もするが、レベッカはいつも自分や自分の周りの状況を冷静に見ているような気がする。
さすがピーター・クリフォード警視の姪だけのことはある。
可愛いだけじゃない。
頭がいいだけでもないし、料理が上手いだけでも、気が利くだけでもない。
チラッと助手席に目を向けると、細くて長い指をもつ白い綺麗な手が彼女の膝の上にチョコンと乗っていた。
もう、これだけでも可愛い!
「あっ」
よそ見をしていると、レベッカが小鳥の囀るように小さく声を上げた。
前を向くと、スケボーの少年が道路に飛び出してくるところだったので、慌ててブレーキをかけハンドルを右に切り飛び出してきた少年を避けて停止した。
……いけねぇ、いけねぇ。
今は事件に集中しないと。
スケボー少年の方も、車に驚いてボードを縁石にぶつけて転んでいた。
信号無視して突っ込んできた少年がいくら転んでも俺のせいじゃない。
俺は叱ってやろうと思い、車から降りた。
「大丈夫⁉ 怪我は、ない?」
いつドアを開けて出たのかさえ分からないくらい早く、もうレベッカが転んでいる少年の所に居た。
転んでジーンズについた汚れを、惜しげもなく真っ白なハンカチで拭きながら少年に怪我はないかと親身になって聞いている。
レベッカが好いお嫁さんになれることは、もうとっくに分かっているが、この子は好いお嫁さんどころか良いお母さんになる資質も充分に備えている。
そして屹度、最高に幸せな家庭と家族を築くことも……。
“この場所!”
あれはロイドネックの砂州で事件があったあと、隠れ家に行きハユンから新人の背の高い男が厨房で殴られていた話を聞いた日のこと。
俺は直ぐにその男こそ俺が追っていたダイアナに纏わりついていたグレッグ・メロンだと思い、ヤツが厨房から出て来るのを車で待っていた。
だがヤツは従業員たちが皆帰った後も店から出て来ず、出入り業者らしいトラックが店に横付けしたタイミングで他の厨房のメンバーと共に連れ去られた。
俺はそのトラックを追い、いきなり道路を塞ぐようにして飛び出して来たコノ日店を休んでいたリズの車とぶつかりそうになりトラックを見失った。
美しいレベッカの行動に気を取られていたが、ようやく気がついた。
この場所の意味を。
リズは偶然を装っていたが、彼女の行動は明らかに俺の追跡を邪魔するために行われたものだった。




