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【ロマンスは止められない①(Can't stop romance)】

 レベッカが作ってくれた美味しい朝食が済んだころ、FBIの捜査官を連れてピーターがやって来た。

 FBIの捜査官たちはハユンを安全な場所に移動させるために来たのだが、嫌がって暴れるのではないかと心配していたハユンは何故か機嫌良さそうに「じゃあ上手くやってね」と、レベッカの肩をポンと叩いて去って行った。

 机を隔てた反対側に居た俺の肩を叩くより隣に居たレベッカの方が手っ取り早かったのだろうと気にしていなかったが、事件の山場を前に緊張したのだろうか肩を叩かれたレベッカは少し顔を赤くして俯いていた。

「ところで、あの2人から何か重要な情報は得られたのか?」

 いくらFBI管轄の事件だと言っても、折角捕まえた餌を前にピーターが尋問を怠るわけがないと思って聞くと。

 ピーターは何故か呆れた顔をして、ひとつ溜息をついてから教えてくれた。

 奴らのアジトはロイドネックに在るらしいことを。


「ロイドネック⁉」

 ロイドネックと言えば、あの砂州の事件があった場所!

「そう。つまり君が追っていた人物は、一味の仲間だったんだ」

「マフィアか」

「そうだ」

「ヤツの目的は?」

「さあ、そこまでは今のところ分かっていない」

 やはり思った通り、あの背の高いグレッグ・メロンはマフィアの一味だった。

 奴らのアジトはロイドネックにある。

 きっとダイアナもソコに軟禁されているはず。

 そうと分かれば、俺の行く道は一つ!

 鍵付きの引き出しからSIGザウエルP210-7を取り出し、22LR弾のケースを2つ掴んでポケットに押し込む。

「おいマックス!まさかお前、行く気じゃないだろうな⁉」

 ピーターが止めようとして声を掛ける。

 だが彼の言葉は決して本気じゃない。

 本気でそう思うのなら、最初からマフィアのアジトがある場所を俺に教えないはず。

「いくに決まっているだろう」

「どうして⁉」

「俺のお客さんが、そこに軟禁されていて命が掛かっているかも知れないんだ。もうマフィアもFBIも関係ねえ‼」

「なるほど、その手があるか!」

 案の定ピーターは俺を止めることもなく、逆に俺の話を聞いて手をポンと叩いて納得した表情を浮かべた。

「俺のことが心配なら、署から軍隊を引き連れて後を追ってくれてもいいんだぜ」

 用意をしながらピーターを揶揄うように言うと、彼もまた分かったと言ってポケットから携帯を取り出して署に電話を掛ける。

 最後に車の鍵を手に取り玄関に向かおうとしたとき、それまで黙ったまま様子を見ていたレベッカが「私も行く‼」と言って立ち上がった。


「駄目だ‼」

 咄嗟に俺は、いつになく強い口調で彼女に言った。

 可愛いレベッカを、そんな危険な場所に連れて行きたくはなかった。

 だが彼女も、いつになく強い口調で俺に言い返してきた。

「駄目じゃないわ! 私もマックス探偵事務所の一員よ‼」と。

 俺の言うことを聞かないレベッカを初めて見た。

 でもレベッカを大切に思う俺の気持ちは変わらない。

「一員なら、ココに居て、事務所を守って居てくれ!」

 我ながら咄嗟に好いセリフが出たと自惚れた矢先、レベッカが俺の言葉の隙を突いて言った。

「ハユンさんをココに連れてきた以上、ココも安全とは言えませんし、既にマフィアにマークされているかも。だから付いて行きます!私自信の身の安全のために‼」

 言われて初めて気付く。

 ハユンを殺すために彼女のアパートに先回りしていた用心棒の2人は、決して自分の意志でそれを計画して動いたのではなく、誰かの指示を受けてそうした。

 それならば殺害に失敗したことも既に知っているはずで、レベッカが言う通り俺の後をついて来てこの探偵事務所を見張っているかも知れない。

 見張っている以上、誰が何人出入りしたかは把握すべき重要なこと。

 俺が出て行き、直ぐにピーターも出ていく。

 事務所にレベッカ1人になった事が分かれば、俺が何物で、どこまで知っているか調べに来るはずで、仮に俺たちが出ていくときに家に帰したとしても後をつけられることは十分考えられる。

 そうなればレベッカが危ない!


「ピーター!レベッカを止めてくれ‼」

 俺はピーターにレベッカを預けようと思って言った。

 だがピーターは通話中の携帯から一瞬耳を外してこういった。

「No matter how much I try, I can't stop romance(いくら俺でもロマンスは止められない)」と。


 “ロマンス⁉ いったいなんのことだ??”

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― 新着の感想 ―
ピーターさん! 粋ですね(^_-)-☆
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