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“最高にダサい男”私立探偵マックス・ベル(Max Bell, the most uncool man)  作者: 湖灯


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【問うに落ちず、語るに落ちる(It is easier to draw than to force)】

「アンタなんてことをするのよ! 部屋が無茶苦茶じゃない‼」

 部屋が無茶苦茶になったことに腹を立てたハユンが、凄い剣幕で俺に食って掛かる。

「オマエ殺されかけたんだぞ!」

「殺されかけた⁉ でも、どうしてくれるのよ、コノ部屋……」

 怒っていたハユンが、今度は泣き出した。

 あらためて部屋を見渡すと、我ながらよく散らかしたものだと呆れた。

 チェストの上にあった花瓶やテレビ、ブルーレイプレーヤーやスピーカーは床に落ちて壊れているし。

 シーリングライトも床で割れている。

 おまけに横倒しになった冷蔵庫からは、牛乳などの液体が流れ出し、更に床には割れたワインボトルとワインの液体……。

 これじゃあハユンでなくても泣きたくなるのは当たり前。


 ただノンビリもしていられない。

 ハユンの口封じに来た2人の用心棒から連絡がない事により、様子を見に来たマフィアの奴らとハチあうのはマズいから、直ぐにNY市警のピーター・クリフォード警視に連絡をしてパトカーと救急車の手配を頼んだ。

 マフィアは警察内部にも情報源を持っているから、ハユンの身柄は一旦俺が与ることにして一応彼女の行方は“不明”と言う事にした。

 警察がハユンの身柄を確保した事が分かると、マフィアの方が先に動くから。

 そうなると、事件の核となる部分は揉み消される可能性が高くなり、新たな被害者が出ないとも限らない。


「へぇ~アンタ探偵だったんだ」

 部屋に連れて帰り珈琲を淹れていると、さっきまで怒ったり泣いたり、気落ちしていたハユンが元気になった。

「それで調べていたのは、どっち⁉」と彼女が好奇心に満ちた目で俺に聞く。

 どっちとは、どういうことかと逆に聞きかえすと、彼女は「店か、それともリズの事か」と言ったあと、どっちであろうともアタシはペラペラと喋りはしないけど。と威張ってみせた。

 店が胡散臭いのは分かるが、リズの意味が分からない。

 2つに何かあるのかと聞くと、ハユンは「知らない」とだけ答えて差し出した珈琲を口にして、顔に似合わず綺麗にしているのねと部屋の中を見渡しているだけだった。

 公言通り、何も言わないつもりだ。

 俺はワザと気にしない素振りを見せ、珈琲を口に運びテーブルに置いていた新聞を広げた。

 しばらく新聞を読んでいると、ハユンは手持無沙汰なのかテーブルに置いていた俺の煙草を勝手に取り、窓を開けて火をつけて吸い始めた。

 その時も俺は何も言わずに、新聞を読んでいた。

 カチカチと時計の秒針が響く部屋には、時折通る車の音と冷たい冬の風が入って来るだけ。


「あのリズっていう女、なんか怪しいと思わない?」独り言のようにハユンが呟く。

 俺は読んでいた新聞をテーブルに置くだけで、特に肯定も否定もしないで黙っていた。


「アンタ、あの女、おかしいとは思わない?」

 今度は振り向いて言ったハユンに、俺はただ彼女から会員証を貰ったから酒を呑みに来ていただけで深く考えたことはないと答えるとハユンは、確かにアンタはリズ目当てに鼻の下を伸ばしに来ているだけかも知れないと言って少し笑った。


「私、あのリズって言う女はスパイだと思うの」

「スパイ? 何のための?」

「店に雇われて従業員を調べているのか、それとも警察に雇われて店を調べるためなのかは分からないけれど……私ってこう見えても結構勘がいいんだ。だから今まで何事もなく勤めて来られた。でも今回はとんだドジを踏んじゃった」

「ドジ?」

「そう。ドジ。お店のことをアンタに話しちゃったから」


 お店の事と言っても、VIPルーム担当でオーナーのお気に入りだったマリアが、新人のフローレンスにその地位を取られて辞めたことくらいじゃないかとワザと呑気な口調で言った。


 だが実際はそのマリアから地位を奪ったフローレンスはダイアナ・スコットで、地位を奪われて辞めたマリアはダイアナの旦那とともに事件で死んだ貿易会社の女社長パウラ・フェルナンデス。

 そして死んだダイアナの旦那のパソコンには麻薬の密売に関わる二重帳簿が隠されていた。

 この繋がりはかなりヤバい。

 NY市警で調査するよりも、FBIに知らせればヨダレを垂らしながら大喜びして出てくる案件なのかも知れない。


「実はね……」

 呑気に構えている俺に業を煮やしたように、ハユンは神妙な面持ちで話しはじめた。

 それはアノ店の裏事情のこと。


「厨房では料理の他に違う作業も行われているって言う噂よ」

「違う作業? それは?」

「麻薬の精製」

 やはり思った通り。

 会員制の違法となる煙草を自由に吸えるバー『hideout(隠れ家)』は、やはりレベッカが見つけてくれた二重帳簿通り、麻薬の密売に関わっていた!


 事件の中枢に迫り感動している俺の表情に、ハユンが何か勘違いしているのか艶やかな瞳で俺を見て言った。

「これからアタシをどうするつもりなのさ」と。

 どうするもこうするも、大事な証人をアパートから追い出すわけにもいかないので、今日は俺のベッドで寝てくれと言うと「アンタは?」と聞かれたので、俺はクローゼットで寝ると言った。

 するとハユンは何故だか機嫌を損ねたように「あっそっ」と返事をすると俺の顔も見ずに奥のベッドルームに消えて行った。


 “いったい何なんだ? あの態度は……”

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