【ハユンから得た情報③(Information obtained from Hayun)】
同僚のホステスと別れたあとのハユンの行動は、やはり少しおかしかった。
時折誰かにつけられていないか確認するように、後ろを振り返る素振りを見せる。
やはり彼女も不安を感じているに違いない。
その不安とは何か?
ダイアナの失踪と関係はあるのだろうか?
しばらくつけて行くと、ハユンはあるアパートの前で足を止めた。
顔を上に傾け、おそらく自分の部屋に変わったことがないか確認をしているのだろう。
アパートは7階建て。
彼女の見上げた角度から推測すると、部屋は4階か5階。
ここで声をかけると、混乱した彼女に騒がれて全てが台無しになる可能性がある。
彼女が階段を使ってくれれば有難いのだが……。
ハユンはアパートの中に入るとエレベーターのボタンを押し、エレベーターが降りて来るとボタンを押した場所から5歩後ろに下がり、更に左右に移動して中に誰も居ない事を確認した後にエレベーターに乗るという奇妙な行動をとった。
明らかに何かを警戒している。
有難いことにエレベーターの隣に階段がある構造だったので、エレベーターのドアが閉まると直ぐに駆け出して階段を駆け上り、各階ごとに立ち止まってはドアの開閉する音を確認した。
5階でエレベーターを降りたハユンは、そのまま部屋へと向かい、階段の影から後ろ姿を追う。
ハユンはドアのカギを開ける前に、通路の方を振り向いた。
追跡者が居るかどうかの確認をしたのだ。
“なかなか用心深い”
もちろん長年刑事を務めていた俺はバレるような追跡はしない。
彼女は安心したのか、ドアのカギを開けて部屋の中に向かう。
彼女の体が半分隠れたところから、俺は廊下に飛び出した。
用心深いハユンのことだから、ドアが閉まったあと確実に内側から鍵を掛けるだろう。
鍵を掛けられた後で、ピッキングして鍵を開けていたのでは間に合わないかも知れない。
もしも俺の予想通り侵入者が居たとすれば、奴らがハユンを狙うのは無防備に背中を向けたソノ瞬間だ!
俺は閉まる寸前のドアにスライディングして靴先を捻じ込んだ。
そのとき、中からウッと言う声にならない声が聞こえた。
やはり侵入者が居た。
奴らは中でハユンの帰りを待っていて、いま背中越しに彼女を襲い、彼女が声を上げないように口を塞いだのだ。
勢いよくドアの隙間から体を押し込むように中に入ると、店の用心棒二人が拘束したハユンを部屋の奥に引きずり込もうとしているところだった。
背の高いほうがハユンの口を塞ぎ上半身を拘束して、背の低いほうがハユンの両足を持って彼女を部屋の奥に引きずり込んでいるところだった。
俺が入って来たことに先に気付いたのは背の高い方だったが、2人してハユンを持ち上げていたため直ぐには動けず、背の低い方へ俺の侵入を知らせた。
だが時すでに遅し!
背の低いヤツがハユンの足から手を離した瞬間に俺はそいつの腰に腕を回し、ヤツの姿勢が反撃をするために起き上がるタイミングに合わせて勢いよくバックドロップ一閃し、背の低い男はそのまま廊下に崩れ去った。
「コノヤロー! やっぱり胡散くせー奴だと思っていたんだ‼」
正義の味方に、胡散くせー奴とは言葉が過ぎる。ってか適切ではない。
胡散くせーのはコッソリ女の部屋に忍び込んでいたお前たちにこそ相応しい言葉じゃないか。
背の高い奴がリーチを生かしたパンチを俺の顔面に目掛けて繰り出す。
俺は両手で顔をガードしながら、姿勢を低くしてヤツの懐に潜り込む。
丁度ヤツの腹部まで達したとき、ヤツが俺の顔を目掛けて膝を上げて来たのでソノ膝を逆に抱え上げて一気にタックルのように押し込んでやると、部屋の隅にあるチェストまで吹っ飛びソノ上にあった花瓶テレビが床に落ちで激しい音を立てて壊れた。
花瓶とテレビを壊したヤツは、それらがあった台の上に腰掛ける体制になり、慌てて台の上から降りて俺に向かって来ようとした。
だが俺はヤツより早くもう一度ヤツの懐に飛び込み、向かって来ようとした反動を利用して抱え込むように大きく投げ飛ばす。
投げる時ヤツの長い足が天井に掛かっていた照明に引っ掛かり、チェーンごと照明器具を落としてまたガチャンと大きな音がした。
俺はすかさず仰向けに倒れた男の腹部目掛けて膝を落とすと、ヤツは大量の胃液を吐き出して気絶したのも束の間、最初に倒した背の低い男が起き上がってきて俺を背後から抱きかかえようとした。
このまま後ろに投げられては堪った物じゃないから、俺はヤツの足に自分の足を絡めて半身になり、逆にヤツのケツの上のベルトを掴んでそのまま目の前にあった冷蔵庫目掛けて押し込んでやった。
冷蔵庫とヤツが、もつれるようにドスンと倒れ、横倒しになって開いた冷蔵庫のドアラックにあったワインボトルを手に取り、起き上がろうとするヤツの側頭部に向けて叩きつけてやり寝かしつけてやった。
酒場の用心棒と言っても他愛ない。
まあ強すぎる俺が相手じゃ仕方がないか。




