【巧妙に隠されたファイル③(A well-hidden file)】
“新たな第三者か……”
俺が困った顔をしていることに気付いたレベッカが、その女性の画像を私に送ってくださいと言った。
事件で死んだ女の写真なんて、レベッカには持たせたくないと思ったが、優秀な彼女には何か考えがあるのだと思い渋々画像を送ると彼女は自分の携帯を使って何かした後、もう一度その写真をオバサンに見せた。
「そうそう。この人よ!」
オバサンは、まるで宝物を発見したように言った。
さっきと同じ写真なのに、何故だろうと思い、覗き込むと。
セミロングの金髪にパーマを掛けていた浮気相手の女は、黒髪のロングヘア―に変わり着ている服もカジュアルな服装からスーツに着替え、太っていた体型も小太りな印象へと変わっていた。
「どういうことだ?」と、不思議そうに聞く俺にレベッカは「着せ替えアプリ」だと教えてくれ、ビルが一般人の方が警察より格段にハイテクだなと笑っていた。
そう言えばアンドリューの浮気相手は小さな貿易会社を営んでいたはず……その女社長が、いったい何でダイアナの所に? いや、そもそも浮気相手の女が堂々と男のカミさんに会いに行くとか有り得るのか?
しかも一度ではなく何度も。
不自然な女の行動の意味を考えていると、急にピーターに呼ばれてダイアナの家に入った。
ダイアナの部屋は適度に荒らされていた。
テーブルは定位置からズレていて、その上に置かれてあった花瓶は床に落ちて破片と化していた。
俺は許される限り、部屋の中を見て回った。
台所のシンクや食洗器の中、シンクの下の扉の奥にあるガスの元栓や冷蔵庫の中身、バスタブに寝室……。
誘拐にしては怪しい気がした。
ダイアナが俺にメールを送ったのが昨日の9時45分。
そして暴漢に連れ去られたのが、その日の昼。
マイアミに急いで行くのなら、ジョン・F・ケネディ国際空港発の直行便でも、11時から13時半までの間に4便もある。
急いでいたのならココから28マイル(約45㎞)と最も近いロングアイランド・マッカーサー空港10時45分発の直行便にだって乗れたはず。
なのに何故、彼女は昼頃までココに居たのだろう?
旅の支度で忙しかったとしても、俺へのメールなんて家を出る前か飛行機の待ち時間にでも送るはず。
だいいち約束の時間は15時なんだから、遅くても13時までに知らせれば良いのだから、優先度はそれほど高くない。
「5人の男の足跡と、1人の女性の足跡が見つかり、煙草の吸殻は2種類。テーブルは定位置からズレていて花瓶は床で割れている。 マックス、君はどう思う?」
「どう思うって?」
「とぼけるなよ。最初から誘拐だなんて思っていなかったんじゃないのか?」
「状況証拠からは誘拐じゃないと結論が出たのか?」
「まさか、争った跡は残っているし、髪を掴まれたのだろう女の毛髪も大量に採取できた。周辺の聞き込みでも、ダイアナが2人の男に腕を掴まれて車に乗せられている目撃情報も得られた。状況的に言えば、全くの誘拐事件だ。 だが、出来過ぎている。マックス、君も何か感付いているんだろう。それを話せ」
さすがピーター、状況証拠だけでは騙されない。
俺は思っていることを洗いざらい話した。
「先ずダイアナが男に腕を掴まれて車に乗せられている所を見た目撃者だが、家の中で争っていたのなら激しい物音もするだろうしダイアナの悲鳴も聞こえただろう。 しかし目撃者はその時点で警察に通報していない。 何故か? それは、そもそも家の中で争いごとなど起きていないから。 では何故そのような目撃情報を刑事に伝えたのか? それは警察が来て物々しい雰囲気を醸し出したから、昼に見た記憶が“事件”と合うように記憶の中にあった印象が作り替えられてしまったのだろう」
「なるほど、刑事を辞めた今でも、君の勘は鋭いな。 で、他に何を見つけた?」
「見つけた?」
「誤魔化すな。 顔に書いてあるぞ」
俺の勘が刑事時代から衰えていないと人の気を緩ませておいて、自分だって警視になり現場からは離れていながら俺の考えを見抜く勘の鋭さは現役時代と何も変わっちゃいない。
「レベッカが事件の神髄に迫る発見をした」
俺の言葉に驚いたのか、隣にいたレベッカは手をパタパタと左右に振り、アタフタとしていた。
「レベッカが⁉ 何を見つけたんだ?」
「二重帳簿。麻薬の密売に関わる或る店の」