【フローレンス・キャンベル(Florence・Campbell)】
遅くなったから俺が送って行くと伝えると、レベッカは子供のように「やったー!」と両手を上げて喜んだ。
相変わらず素直で可愛い娘。
しかも頭が良い上に、料理が上手で、気も利く。
こんな好い娘を嫁に貰う男は、きっと世界一の幸せ者になれることは間違いない。
いったいどんな奴なのだろうと想像する。
“もしロクでもない奴なら、俺が容赦しないぞ!”
ハドソン川を越えてニュージャージー州に入り、カーニーのアーリントンまでレベッカを送って行くと家の前には2人の男女が待っていた。
ふたりはレベッカの両親。
きっとレベッカがメールで知らせたに違いない。
“まいったなコレは……”
もしも夕食に誘われたら……いや、レベッカの事だから屹度メールに「夕食1人分追加!」なんて書いて送っていそう。
タダで食事にありつけるのは有難いし、料理が上手いレベッカの母親が作る料理の味も気になるが俺だって暇じゃない。
それにレベッカの母親は、ピーター・クリフォードの妹。
あの洞察力に優れた鷹のような目で見られながら食事をすると思うと、食べる前に胃が引っ繰り返ってしまいそうだし、なによりもその洞察力の優れた女の目の前に自分を曝け出すのも怖い。
万が一、不合格の烙印を押されでもしたら、俺はコノ優秀で可愛い事務員を失ってしまうかも知れない。
だから車を降りる前から、断る理由を考えていた。
理由は幾らでもある。
徹夜による疲労、仕事が忙しい、これから行くところがあるetc……。
「いつも娘がお世話になっております」
断る理由を考えている俺に、いかにもピーターの妹らしい活舌の良い声で挨拶をされた。
「いえ、こちらこそ。今日は仕事でコッチの方によるついでに――……」
そこまで言ったとき、日本式のお辞儀をしていて見えなかったレベッカの母親が顔を上げた。
“異母兄妹⁉”
いや、そんな話はピーターから聞いていない。
顔を上げたレベッカママの顔は、俺が思っていた眼光鋭い鷹のような目ではなく、レベッカ同様に優しさと茶目っ気に満ちた可愛らしい瞳だった。
顔の造りもピーターみたいにイースター島にあるモアイ像のようなカクカクっとした顔ではなく、卵型で人懐っこい感じの親しみやすい造り。
ピーターの妹でありレベッカの母親なのだから、どう考えても40半ばくらいのはずなのだが、どう見ても見た感じの年齢は20代後半から30代半ばにしか見えない。
背はレベッカより少し低いが、まだ幼児体形から抜け出せていないレベッカと違い、大人の女性らしく体の線にメリハリがあり可愛い中に色っぽさも兼ね備えている。
髪はレベッカの神秘的な赤髪とは違って金髪でパーマを掛けていて大人っぽいが、色は染めている可能性もある。
眼はレベッカと同じグリーンだけどコロコロとリスのように良く動くレベッカの瞳とは違い落ち着きがある。
おそらくレベッカの瞳がコロコロと良く動くように見えるのは、瞳自体が大きいのと白目が綺麗だからなのだろう。
親子とも顔の大きさは変わらず標準よりかなり小顔だが、少し背が高い分レベッカの方が少しモデルっぽい。
コンタクトなのかも知れないが、レベッカのように愛らしいメガネは掛けていない。
鼻はレベッカと同じ様に女性としてはやや高いように思えるが、ちょっと背伸びをしている子供みたいにツンとした愛らしいレベッカの鼻とは少し違い、ここはピーターと同じ様にスーッと鋭角的に伸びたクールな感じ。
唇はレベッカより少し薄くて、ココもピーターと少し似た印象をうける。
全体的に見て、レベッカもママも美人には違いないが、さすがに歳を重ねている分ママのほうには貫禄がある。
レベッカも眼鏡を外せば、相当な美人であることは間違いない。
どっちが美人としてのランクが上かと100人に聞けば、80人くらいはママだと答えるだろう。
しかし、俺は、そうは思わない。
やはりレベッカの魅力は尊い。
「――さあ、どうぞ」
「あ、はい……」
レベッカママが何かを話していたような気がするが、俺は全くの上の空で何を言っていたのかも分からないばかりか、車の中で考えていたお断りの言葉も出さずに誘われるまま夢遊病者のようについて行く。
「痛っ!」
フワフワとした足取りの俺に気付いたレベッカが、俺の腕を抱くように掴んでくれたが、なんだか少しチクッと抓られたような痛みを感じた。
家の中に入ると、特別豪華な料理ではないが、レベッカが作る料理と同じ様に清潔感があるうえに見た目も良く、俺の食欲を刺激する。
テーブルに着いたとき俺は、ようやくレベッカのパパの存在に気がついた。
たしか、挨拶はしたと思うが、レベッカのママに気を取られて覚えていない。
レベッカのパパは、いかにも優しそうでユーモアのセンスもありそうな人だった。




