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【無言の尋問(Silent Interrogation)】

「ピーターは、いつ頃ココに来た?」

 ピーターに背を向けたまま、ヤツに聞こえないように口パクでレベッカに聞く。

「お昼前よ」

 レベッカも俺に合わせるように、口パクで答えた。

 部屋に入って見たときから徹夜明けみたいな鋭い眼つきだと思っていたが、こりゃあ本物の徹夜明けだ。

 夜中に事件の一報が入り、家から現場に直行して何かを掴んだに違いない。

 もちろん俺は、現場に俺が居たことを警察から追及されるようなものは一切残していない。

 だがヤツがここに居ると言う事は、きっと俺が居たことにつながる何かを掴んだのか、それともただのハッタリか2つのうちのどちらかであることは間違いない。


「なにか知っているのか?」

 俺が聞くとヤツは然も愉快そうに、こう言った。

「俺は何も知らないさ。ただ事件に呼び出されて、眠い目を擦りながら現場検証が終わるのを待っていただけなんだから……知っているのは君のほうじゃないのか? 通報者くん」


 カマを掛けてきやがった。

 だが天下のピーター・クリフォード警視も、余計な一言で墓穴を掘った。

 たしかに俺は警察に通報したし、その音声が録音されていることも知っている。

 もちろん誰かから依頼が掛れば、録音された声が声紋鑑定に掛けられることも。

 しかしそれで通報者が俺である証拠にはならない。 何故なら電話で通報するときに俺はテキストを打っただけで喋ったのは携帯のAIなのだから。


「何の事だか……」

 俺が惚けて答えるとピーターは「そうか」とだけ答え、何も言わずにテーブルの上に置いてあった新聞を読み始めた。


「珈琲をいれますね」

 イライラしている俺の様子に、気を利かしてレベッカが言ってくれた。

 俺はピーターの前に座り、新聞越しで見えないヤツの顔を睨む。


 “いったい何の用事があって来たんだ……そして、どこまで知っている?”

 超優秀な刑事だったピーター・クリフォード警視が自ら現場に赴いて、しかも徹夜までして何かを調べていて俺を尋ねて来た。

 ただ現場に出向いただけじゃないことは俺だってわかる。

 ヤツは何かを知っているに違いない。

 それは一体……。


「どうぞ」

 珈琲淹れる好い香りに気付くことも忘れて、新聞越しで見えないヤツの顔を見るともなく睨んでいるとレベッカが俺とヤツの前にカップを運んできてくれた。

 いち早く珈琲に気付いたヤツが新聞を降ろし俺を見ていた。

 睨み続けていた俺と、目と目が合い、俺は慌てて視線をカップの方に移す。

 指をカップの持ち手に伸ばそうとしたときにヤツの唇が動く。

 “今度は何だ⁉”

「そう言えば――」

 ヤツの言葉に伸ばした手が止まり、次に出る言葉に集中する。

 静かな時間がヤケに長く感じ、心臓の鼓動が集中しようとしている聴覚の邪魔をする。


「今日は寒くなるらしいな」


 意外な言葉に動揺した俺は、カップに伸ばした指を引っかけ損ないゴトンとカップを倒しそうになった。

 振動でカップに満たされた黒い液体が少しテーブルに零れる。

「だ、大丈夫ですか⁉」

 キッチンに居たレベッカが慌ててダスターを持ってきてテーブルを拭きながら、火傷はしていないかと心配してハンカチを渡してくれた。

 俺が大丈夫だと答えると、彼女は俺の手からカップを取り上げて入れ直すと言って再びキッチンに戻って行った。


「どうした?」

 ピーター・クリフォードは、ただ一言だけそう言うと、俺の目を見据えた。

 手に持つ新聞もなく、目の前にあった唯一の救いであった珈琲も今は無く、ヤツの目から逃れる術を失った俺は観念して重い口を開く。

「何が知りたい?」と。


 ピーター・クリフォードは一切の表情を変えずに言った。


「なにもかもだ」と。


 観念した俺は、昨夜の事を一部始終話した。

次回は5月30日金曜日です!

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