【グレッグ・メロン③(Greg Mellon)】
22時20分。
グレッグ・メロンの車は、アミティビルで27号線から110号線に道を変えた。
ここから110号線を3マイル(約4.8㎞)進めば、リパブリック空港が在る。
やはりコミューター機で、どこかにトンズラするつもりなのか?
22時30分。
ところがグレッグ・メロンの車はリパブリック空港を通り過ぎ、メイビルで一旦ハイウェイに乗り東に向かったものの、21時40分にはディックス・ヒルズではそのハイウェイを降りて231号線を再び北に向かった。
22時43分にはバークレー・ジャクソン郡立公園手前にある二股の道を左に曲がり西に進路を取り、その7分後にはサウス・ハンティントンで再び110号線に乗り北に向かって走り出した。
この迷走は一体何なんだ?
22時51分。
グレッグ・メロンの車はハンティントンのメインストリートの交差点を左に曲がると、30秒後にはウェスト・ネック・ロードに道を変え北に向かう。
ヤツが追っ手に気付いているのは間違いない。
問題なのは、いつ気付いたかだ。
考えられるのは3つ。
1つは、27号線を東に向かっている時に気付いて、21時20分に進路を北に変えたとき。
2つ目は、リパブリック空港を通り過ぎた21時30分ごろ。
そして3つ目は、メイビルで乗ったハイウェイをディックス・ヒルズで降りた21時40分ごろ。
考えられる3つのポイントのうち、トンズラするためにリパブリック空港から飛行機に乗ると言う仮説以外は、ヤツは共に東を目指そうとしていた。
22時55分。
ミルロードとの交差点を過ぎたところで俺は追跡をやめ、道路沿いにある警察署の直ぐ北にある公園に車を止めた。
この先は半島になっていて、どの道を通ってもコノ道、つまりウェスト・ネック・ロードを通らなければ戻ることはできない。
コノ道の先に何があるのかと言えば、何にもないはず。
もし在るとすれば追跡者たちと追跡されていたグレッグ・メロンとのイザコザくらいなものだろうが、既に自分が何者かに追跡されていることを知っているヤツがワザワザ面倒なイザコザを好んで受け入れるはずもない。
おそらく半島の先にある島のような部分にある道をクルっと回って、何事も無かったように戻って来るだろう。
その後は今夜の予定を変更して、自分のアパートに戻るだけ。
余計な奴が邪魔に入ったおかげで、今夜の捜査が台無しになった。
それにしても今夜ヤツが出かけた目的は一体何だったのだろう?
空港に用意されたコミューターに乗ってトンズラすると言っても、あんな安アパートに住んでいるヤツにコミューターをチャーターするような金は無いはずだから、もしそれが事実であればヤツの裏には俺の知らない誰かが居るって言うことになる。
東に向かっているとなれば、ダイアナの家に向かっていた可能性もある。
アンドリューの事件後、レベッカを連れてダイアナの家に向かう途中に寄ったファミレスでヤツが話していた、不倫関係にある女の亭主が死んで保険金が入るからお払い箱になった話がどうも気に掛かる。
ダイアナは決してそのような女性ではないはずだが……。
夜の闇が俺の心を曇らせる。
俺は窓を開けシートを倒した。
目を瞑り、ラジオから流れてくるダニー・ハサウェイの『Giving Up』を聞きながら、奴らが戻って来るのを待っていた。
次回は5月19日月曜日です!




