【謎②(Mystery)】
“最高にダサい男”私立探偵マックス・ベル
は、
毎週、月金のAM6時00分よりお届けいたします(๑╹◡<๑):.。+゜
ここは別世界。
まるで禁酒法が施行された1920年から1933年の間、闇営業をしていた酒場のようにキナ臭い雰囲気を醸し出している。
そのキナ臭い中にも花はある。
バーカウンター越しに胡散臭そうな男たちに囲まれているリズは、まさに荒廃した戦場に咲いた一輪の薔薇。
俺が店の中に入ると、リズは男たちと話しながらもチャーミングな青い瞳をこっちに向けて軽く手を上げて俺を喜ばす。
おそらく、どの客にも同じ様に見せる仕草だろうが、それを見せられる客には堪った物じゃない。
まるで特別扱いされたような気分にされてしまい、有頂天になり幾らでも金をつぎ込んでしまう。
これは最近女性の間で人気のあるホストクラブでも同じことが言える。
とある業務上横領事件で捕らえた犯人は、ごく普通の銀行に勤めるごく普通のOLだった。 家宅捜査をしても特に普通の年頃女子と何ら変わることはなく、どちらかと言えば質素な方だった。
その普通の女性銀行員が何故預金者の金に手を出したのか? それはホストクラブで遊ぶ金が欲しかったから。
同じような事件は男にも沢山ある。
どうして男には女、女には男が必要なのだろう……。
壁際にある小さなテーブル席に座ると、リズとは違う女が来た。
おとなしそうな顔に派手な衣装を着た東洋系の、やけに化粧臭い女。
こんなに化粧臭いと、警察犬じゃない俺でもその足取りを追って行けそうだ。
「いらっしゃい、なんにします?」
まるで酔っぱらった旧知の仲のような甘ったれた声と、まとわりつくような馴れ馴れしい仕草で女は注文を聞いてきたので俺は女にお薦めを聞くとミクターズのスモールバッチ サワーマッシュが有ると言った。
俺はその答えを聞いてからジムビームのコーラ割りを頼むと、女は然も忙しいとばかりにそそくさとカウンターに戻り、バーテンダーに向かってぶっきらぼうに俺の注文したものを言った。
東洋人の顔の違いは俺には分からないが、おとなしそうな顔をしていると思ったのに、キツそうな性格。
普通は顔や顔の表情と性格は似通っているものだが、彼女は何故一致しない?
おそらくあの女は二度と俺の前には現れない。
こうなったのも、あの女の自業自得だ。
曲はビリー・ホリディの『セントルイス・ブルース』に替わっていた。
煙草を吹かして酒を待っていると、白いしなやか腕が俺の前に現れてジムビームのコーラ割りを届けに来た。
リズだ。
俺はリズに俺みたいな安い客の相手をしていてオーナーに怒られないのかと尋ねると、彼女はパートだし今は休憩時間だからいいのと艶っぽい声で答えたあと少し困ったように微笑みながら、どうしてハユンを怒らせたのかと聞いてきた。
ハユンと言うのは俺にミクターズのスモールバッチ サワーマッシュを勧めたコーリアンの女のことだろう。
俺はハユンにお薦めを聞くとあの女がミクターズのスモールバッチ サワーマッシュを薦めたからだと答えた。
リズは俺の言葉を聞いて、プライドが高いのねと笑った。
ミクターズのスモールバッチ サワーマッシュだって決して安い酒ではない。
むしろ俺のような男が背伸びして注文するには上限と言える酒。
だが、ココはバーだ。
いくら俺が安っぽく見えてもワイルドターキーのマスターキープ ワンとまではいかないまでもせめてブッカーズ 2022くらいは言って欲しかったと言うとリズは大きな青い眼で俺を見て、じゃあ私がお薦めはブッカーズ 2022と言ったらソレを注文したのかと聞いてきたから、俺はそれでもジムビームのコーラ割りを頼んだだろうと答えると彼女は然も愉快そうに笑った。
「アンタ替わっているのね」
「そうか?」
「だって、カネもないのに、こんな高い店に2度も来るなんて」
「それは君が俺に会員カードをくれたからだろう」
「でも、なんか違う気がする……だってアンタ探偵でしょう?」
「さあな」と、俺は惚けた。
「当てようか?」
急にリズが言い出したが、俺には何のことか分からなかったので何を当てるのか聞くと、彼女は事件の進展だと答えた。
事件と言われても彼女は俺が探偵ではないのかと思っているらしいが、それについてハッキリ「そうだ」と答えたことはない。
しかもNY市警のピーター警視からアンドリューのカミさんについて調べるように頼まれたことは知らないはずだから半分惚けた顔で「当ててごらん」とだけ答える。
リズは目をキラキラさせて言った。
「色んな情報が集まって来たものの、どれが切り札でどれが捨てるべき札か迷ってムシャクシャしてココに来た」と言い当てた。
俺はどうしてそう思うのかと聞くと、リズは事件が解決したのならジムビームのコーラ割り以外のモノを頼むでしょっと答えて笑い俺も彼女に釣られて笑い、流れているStella By Starlight(星影のステラ)のムードに酔いしれた心を任せるようにジムビームのコーラ割りを口に運んだ。




