【アンドリューのノートパソコン①(Andrew's laptop)】
“最高にダサい男”私立探偵マックス・ベル
は、
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ミランダとボブと別れて、ニューヨーク市警に来たついでに、ピーターのオフィスに寄る。
「ようマックス、もう動き出したのか。さすがに初動が早いな」
警視になり今は刑事課のボスとはいえ乱雑に散らかった机を見ると、まだ現場への未練が残っているのだと思った。
「捜査状況は、どうなっている?」
俺の問いに、ピーターは可笑しそうに大方のヤツはアンドリューが自殺の道連れに女を殺した線が有力らしいと、他人事のように言った。
ビルがこのように他人事のように話す時は、彼の考えが違うところにある証拠。
密室だから自殺と言うのは、いかにも安直だが俺はそうは思わない。
だいいちアンドリューが女の首を絞めて殺したのであれば、抵抗されたときに出来る傷が残っているはず。
特に顔や髪、そして首を絞めている手首に。
だが自殺したとされるアンドリューには、その様な傷は残っていなかった。
「マックス、おまえは、どう思う?」
「オートロックの部屋で侵入者も無い状況で、優秀な刑事さんたちが自殺の線で動いていているのなら自殺なんだろう」と、俺は心にない事を言って帰すと、ピーターは呆れたような目をして俺が知り得ない現場の状況を教えてくれた。
通路には監視カメラが付いていて、その映像は警備室とカウンターのモニターでも確認できるようになっていた。
だが事件のあったホテルの監視カメラは、その映像を記録するレコーダーが壊れていたため実際に部屋への侵入者が無かったとは言い切れないが、ドアノブや部屋の中にも第三者らしき指紋は検出されていない事を教えてくれた。
つまり第三者の痕跡は無かったと言うこと。
「なら、自殺なんだろう」と、俺が言うとピーターは身を乗り出して俺の眼の奥、つまり脳の中まで覗き込むような彼独特の眼を向けて言った「本当に、そう思っているのか」と。
ピーターには勝てない。
コイツに睨まれた俺は、まるで蛇に睨まれた蛙と同じ。
いずれ暴かれてしまう事を、汗をダラダラ流しながら隠し通そうとするのもみっともないので俺は正直に俺が思っていることなどを洗いざらいに話すことにした。
まあ、このためにピーターは捜査状況を餌として俺に教えたのだからコレは“おかえし”だ。
「……マックスつまり君は、自殺の道連れに女が殺されたのではなく、他殺だと言うのか?」
「ああ、根拠は今言った通りアンドリューの腕に傷が無かったこと」
「たしかに。予め練炭による一酸化炭素中毒や、薬物による朦朧とした状態ではない限り、首をおとなしく締め殺される者はいない。そして死んだ女の血液からは中毒や薬物反応も出ていない……密室は、どう解釈する?」
ピーターが密室に拘っているのが少し可笑しかった。
オートロックなのだから、必然的に鍵は掛かる。
密室と言うより、どうやって中に入ったかだ。
アンドリューと連れの女が部屋に入る瞬間を狙い、同時に中に入ったとすれば当然不意に入って来た侵入者に驚いた2人、もしくはどちらか1人は抵抗を試みて争った痕跡が残るはず。
だが、あの部屋の何処にも争った形跡はなかった。
「と、言う事になるとやはり自殺説の方が有力になると思うが、違うのか?」
ピーターが不思議そうに聞いたので、俺は不意を突くことができれば可能だと答えた。
「不意を突くと言っても、合い鍵もないドアを開けて侵入するんだ?」
「例えば通路側から針金などを使ってサムターンを回して、部屋の内部からドアを解錠すると言うのはどうだ」
(※ オートロックのドアでも、サムターンと言ってドアのロックを掛けたり外したりするツマミがドアの内側に付いている。これは客が帰ったあと、清掃業者が掃除中に誤ってドアを閉めてしまわないために使用され、清掃終了後も清掃業者はサムターンでドアのロックを出したまま帰るのでドアはロックが出ていることにより完全に閉まることはなく少し隙間が空いた状態になる。その後はホテルの担当者が、1つ1つの部屋の清掃状況などをチェックして回り、問題が無ければサムターンのロックを解除して正式にドアを閉める。ホテルのドアには新聞などを入れる隙間がドアの下の部分にある場合が多く、そこからサムターンにアプローチされることがある)
「それは、ないな。サムターンには針金で擦れた時に出来る小さな引っかき傷は検出されなかった」
実は俺も針金を廊下から突っ込んでサムターンを回して開けたとは思っていなかった。
だが確証も無かったので、ピーターの今の言葉を待っていた。
おそらくピーターも、それを承知したうえで教えてくれたのだろう。
これで、一つ目の謎は解けた。
「だったら、アンドリューか女のどちらかに共犯者がいたと言う事だろう」
「本気か? 2人とも死んでいるんだぞ」
「悪党が裏切ることは、何度も見て来て知っているだろう?」
「なるほど……」とピーターは腕を組んで頷いていた。




