【依頼主ダイアナ・スコット⑤(Client: Diana Scott)】
“最高にダサい男”私立探偵マックス・ベル
は、
毎週、月金のAM6時00分よりお届けいたします(๑╹◡<๑):.。+゜
ダイアナの家を出て車に乗り込むと、レベッカが今日このあとの仕事は無いのか俺に尋ねたので俺は正直に特に行く予定があるところは無いと答えた。
すると彼女はこの少し先のフランダースにある『ザ・ビッグ・ダック』を観に行きたいと言い出したので連れて行ってやることにした。
運転もロクにできないくせに俺に代わって必死に運転してみたり、珈琲の香りで銘柄を当てたと思ったらタイヤの付けた凹みで転びそうになってみたり、今度は子供のようにザ・ビッグ・ダックを観に行きたいとか。
年頃の娘だから大人びたこともタマに言うが、レベッカは基本的にいつまでも子供だなと運転しながら思った。
ダイアナの家からザ・ビッグ・ダックがある場所までは1,6マイル(約2,6km)ほど。
のどかなフランダース・ロードを通って5分も経たないうちに、緩い右カーブの先に白い大きなアヒルが見えてきた。
レベッカはザ・ビッグダックに着くと「カワイイ‼」と周囲を一通り回り出し、俺も何かあったら困るので渋々一緒に付いて回る。
1931年に養鶏業者が自社のトレードマークとして作ったものが、今ではチョットした観光スポットとなり、平日の今日は空いているものの休日のピーク時にはここの駐車スペースに入りきらないほどの車が押し寄せる。
観光スポットと言っても、広い空き地の上に大きくて真っ白なアヒルが1つ置かれているだけ。
大きさは小屋1軒分くらい。
クリスマスにはコイツの首にイルミネーションの装飾が垂らされた姿を見るために、この辺りは人でごった返す。
「マックス!見て!見て!お尻‼」
レベッカが燥ぐように、コイツのお尻にドアがあるのは可愛いが、彼女は俺に見るように言ったあと必ずその場所で一緒に記念撮影を撮らさられるのは少々厄介だった。
お尻にドアがあるように、コイツは胸にもドアがある。
獲物を取り込むドアと、消化した残りを排泄する用のドアなのか?
レベッカが胸のドアに吸い込まれるように中に入って行く。
“彼女はアヒルに喰われた”
断末魔の中、半分閉じかけたドアの口から助けを呼ぶようにレベッカの若々しい腕が手招きするように揺れたあとヤツの胃の中に吸い込まれて行く。
胃の中まで飲み込まれてしまった者を助け出すことは出来ないが、俺は仕方なしにアヒルに飲み込まれる前に彼女が出した救援の合図に従って胃の中に飛び込んだ。
真っ白なアヒルの外観とは違い、胃の中には栄養を取り込むための様々なアイテムが用意されていた。
つまりココで客にアイテムを買わせて栄養を得て、店主は就業時間と共にケツのドアから排出されるのだ。
Tシャツにエコバッグそして写真にマグカップや書物などのオリジナル品の他に、既製品のバスタブに浮かべる黄色いアヒルとか縫いぐるみや何の関係があるのか分からないが通常の物より2倍も長い消しゴム付きの鉛筆もあった。
レベッカは何かを買ったあと、急に慌てたようにポーチの中を探し始めた。
財布を忘れたのかと思ってポケットから自分の財布を取り出して聞くと、ポーチに付けていたマスコットが無いと言った。
車を降りてからココまで辿った行程を逆に辿りながら探したが見つからず、車の中にもマスコットらしきものは落ちていなくて、どこで落としたのか心当たりはないのかと聞くと、彼女はダイアナさんの家を出たときに転びかけたときに外れたのかも知れないと言ったので引き返すことにした。
レベッカには悪いが、俺にとってはそう悪い事じゃない。
なにしろ1日のうちに2度もあのダイアナに会えるチャンスを得たのだから。
ところが引き合えしてみると、家にダイアナの車が無かった。
一応玄関の呼び鈴を鳴らしてみたが何の応答もなく、やはり彼女は何処かに出かけていた。
仕方がないのでレベッカと一緒に砂利の駐車場を探すと、直ぐに彼女は「あった!」と言って黒いモフモフしたものを俺に見せてくれた。
「なんだ、スティンキーか」(※スティンキー=コミックス版ムーミンに登場する黒くて毛むくじゃらの登場人物。趣味は悪戯をすること)
「違うわ、まっくろくろすけよ!」