【依頼主ダイアナ・スコット③(Client: Diana Scott)】
“最高にダサい男”私立探偵マックス・ベル
は、
毎週、月金のAM6時00分よりお届けいたします(๑╹◡<๑):.。+゜
「どうぞ」
テーブルに珈琲が置かれる。
何の珈琲か分からないが、俺はこの挽きたての香りが最高に好きだ。
「コロンビアですね」
「あら、アナタお若いのに良く分かるわね」
「いつもマックスが淹れてくれますので」
「マックスさん、珈琲好きなんですね。知りませんでしたわ」
「い、いや……」
レベッカの言葉にダイアナが驚いた顔で俺の方を向いて微笑んだが、彼女よりももっと驚いたのは俺の方だ。
確かに俺は自称珈琲通だけど、夏場に限ればDrペッパーやルートビアの方を多く飲み、珈琲はあまり飲まない。
自称珈琲通になるのは秋から冬をまたいだ春先まで。
それに珈琲豆を買う時に、特に拘りはなく主に安い豆を買う。
俺がブルーマウンテンやキリマンジャロを買ってくる場合は、その殆どが賞味期限切れ間近の値引き品。
もちろん炒りたての高い豆が旨い事は知っているけれど、そういうものを無理して買わないのは、身の丈に合っているから。
珈琲の豆に拘るのはもっと大物になってからだと思っているし、たまに自分へのご褒美としていい豆を買って飲むくらいが今の俺には合っている。
ついでに言えば事務所で仕事中に自分で入れて飲むのは、面倒くさいからいつもインスタントだ。
だからこの珈琲が何物であるかは分からなかった。
でも何故レベッカは珈琲の香りの事を言いだしたのだろう?
そう言うことを自慢するような娘ではないのに。
香り?
そう言えば、この部屋は何だか前に来たときよりもスッキリした香りがしているような気がする。
ラベンダー?
しかし庭にラベンダーなんて無かったが……。
ここに来る前、ファーストフード店で若い2人組が話していた死んだ旦那の保険金に浮かれている女の話に、“もしかして……”と少し疑っていたが、ダイアナの様子からはそのような気配は一切感じられなかった。
彼女は終始うつむき加減で、いかにも亭主の死に心を痛めているのは明らかに見えた。
ピーターからダイアナを調べるように依頼されたとき、正直気が進まなかったが、こうして落ち込んでいる本人を前にしているとやはり受けるべきではなかったと後悔する。
俺は無責任なテレビのレポーターとは違う。
確かに夫の浮気に悩んでいたとはいえ、もともと好きだったから結婚したわけで、その当時の楽しかった思い出は決して消し去ることはできないだろう。
彼女の前で、核心に迫るような質問も出来ずにただ珈琲を飲みながらありきたりの調査結果の報告しかできずにいた。
「彼、きっと私が探偵を雇って浮気の調査をしていることに気付いていたのだと思います」
「気付いていた⁉」
「いえ貴方に気付いたのではなく、おそらく私の態度に……なにしろ頭の良い人でしたから」
たしかに死んだアンドリューは優秀だったのだろう。 でなければ大手の弁護士事務所は雇わないし、この立派な家だって相当なサラリーが無ければ建てられない。
「弁護士は人のスキャンダルなどに関わる職業ですから、自身がそのスキャンダルを起こせば当然会社も良いようには思わないでしょう? それも分からずに私は直接彼に真相を聞き出すこともせず、貴方と言う探偵を使って彼を追い込んでしまったのです。 浮気が明らかになり調停に入ることになれば、職業柄彼は会社での居場所を失うかも知れませんし、私が多額の慰謝料を請求すれば経済的にも困窮するでしょう。 もちろん私は慰謝料の請求はしますが、それは必要な分だけで決してそのお金で贅沢な暮らしをするつもりはありませんでした」
ゴージャスでエキゾチックな見た目とは違い、この奥ゆかしさも彼女の魅力だと思った。
「だから追い詰められた彼は、自殺したのだと思います」
「自殺⁉」




