【依頼主ダイアナ・スコット①(Client: Diana Scott)】
“最高にダサい男”私立探偵マックス・ベル
は、
毎週、月金のAM6時00分よりお届けいたします(๑╹◡<๑):.。+゜
次の日の朝、車のキーを届けに来たレベッカに起されて目が覚めた。
リズの店を出てから、どうやってアパートに戻ったのか覚えていない。
着ている服は昨日のまま、靴は一応履いていないから、ベッドの下で脱いだのだろう。
ベッドから降りて靴を履こうと思ったが、そこにあるはずの靴はスリッパに変っていた。
レベッカに俺の靴は何処かと聞くと、履いたまま寝ていたので脱がせて今は窓の外にあるフラワーボックスで日向ぼっこをさせていると教えてくれた。
“日向ぼっこ”と言うところがレベッカらしくて可愛いが、靴を脱がしたと言う事は寝ている俺のベッドの傍まで来たと言う事。
寝ていたのが俺だったから良かったモノの、いかがわしい男だったら手を掴まれてベッドに引き込まれる恐れがあると思って注意すると、彼女は「マックスは、私を引き込まないの?」と、あのリスみたいにコロコロと動く大きな瞳を見せて俺を揶揄いやがった。
何か言い返してやりたいと思っていたら、今日は美人の依頼人さんの所に行くのだから早くシャワーを済ませてと野菜を切っているレベッカに言われ、そそくさとシャワールームに入る。
シャワーを浴びて出る時に、着替えを用意しておくのを忘れていた事を思い出す。
まあいいか……と思ってシャワー室から出ると、出て直ぐの棚にキチンと折りたたまれた着替えが置かれていた。
開きっぱなしだったアコーディオンカーテンも閉めてあり、キッチンからは玉子とトースト、それにソーセージの焼ける好い匂いが漂っていた。
レベッカのおかげで久し振りに餌以外の素晴らしい食事にありつくことができ、朝食を済ませた俺は意気揚々と依頼人であるダイアナにアポを取り出発の準備に取り掛かった。
キッチンで洗い物を済ませたレベッカは、これから大学へ……。
ところが彼女は、急に自分も一緒について行くと言い出した。
「大学は?」
「いいの。必要な単位は全て取り終わっているし、今日は特に興味のある講義も無いから」
まだ4年生になったばかりなのに、いい気なものだと思ったが、難関大学として知られるコロンビア大に通いながら週3日の自由出勤とはいえ俺の職場で事務をしながら3年生までに全ての単位を取り終わるなんて、幼さが残る可愛らしい見た目と違って才女は違う。
しかし何があるか分からないから駄目だと断ると、レベッカは下準備を済ませたのかと聞いてきた。
「下準備?」
「だって、調査をしていらしたのでしょう? それで “このたびは、ご愁傷さまでした” だけで済まないでしょうし、叔父様からそのダイアナって言う人の調査も依頼させれいるのですから、事件の前後で得た情報の整理くらいはしておいた方が良いと思って……」
“あ~っ!”
レベッカに言われて初めて気付く。
鼻の下を伸ばしてリズの店にコートを返しに行く暇なんて無かったんだ。
俺は現場でアンドリューの車にあったノートパソコンから取ったデーターに目を通しておくべきだった。
俺が報告しなくても既にニュースで、夫のアンドリューが女とホテルに泊まっていたことはダイアナだって知っている。
このままダイアナに会いに行けば、レベッカの言うように “このたびは、ご愁傷さまでした” と言って珈琲の一杯でもご馳走されればいいところ。
まるでバカ丸出し。
レベッカの家はここから78マイル(約125.5㎞)離れたロングアイランド島のノーサンプトンにある。
時間にして約2時間。
約束した時間は13時。
時計を見ると既に10時半。
余る時間は30分しかないが、コレは渋滞とか事故に遭ったとき用にいつも余分に取っている時間。
慌ててスーツに着替えるためにクローゼットに向かおうとすると、レベッカがコートハンガーに掛けてあると指さした。
何とそこにはスーツと一緒に、綺麗にアイロンの掛ったワイシャツも掛けられていた。
やはり彼女は、良いお嫁さんになる素質が十分にある。
そしてクローゼットから現れたレベッカは大人びた濃紺のスーツ姿。
「似合います?」
「就活か?」
「もーっ!」
冗談でそう答え、彼女は少女のように頬を膨らませたが、正直見惚れるほど似合っていて驚いた。
馬子にも衣裳とは、コノことか⁉
「マニュアルトランスミッションのマスタングだが運転できるか⁉」
「もちろんOKよ!」
キーを投げると、彼女は手を横に振り上手く受け取って答えた。
まるで待ってましたと言わんばかりにハリキッテいる様子。
昨日彼女がキーをうっかり持って出たと言うのは、そういう事だったのか?




